この春、鹿児島銀行に新たなリーダーが誕生した。4月1日付で頭取に就任した碇山浩美さん、63歳。わずか2年でのトップ交代という異例の人事のなか、「地域の発展なくして同行の発展、存在価値はない」と言い切る新頭取が、人口減少や後継者不足に揺れる地方の今に正面から向き合う。「最終的にはフェイス to フェイスで、お客さまと決断をする役割はAIではない」――そんな信念を胸に、碇山頭取が歩み出した。

異例の2年でのトップ交代、その背景

2026年2月、鹿児島銀行はわずか2年でのトップ交代を発表した。前頭取の郡山明久氏は会見でこう語っている。「鹿児島銀行のリーダーとして全く心配することなく後見をお願いする」。その言葉が示すように、碇山頭取への信頼は厚い。

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碇山頭取自身も同じ2月の会見で、就任にあたっての覚悟を明確に口にした。「地域の発展なくして同行の発展、存在価値はない」。地域密着の経営強化を前面に掲げた新体制の幕開けである。

薩摩川内市出身の碇山頭取が鹿児島銀行に入行したのは、今から41年前の1985年のこと。バブルまっただ中、真新しいスーツをまとった新入行員たちが希望に満ちあふれていた時代だ。「銀行ってかっこいいなというのがあって。身なりを整えて社長さんたちとお話ができて、みたいなところ」。そんな動機で飛び込んだ世界だったが、現実はすぐに立ちはだかった。

門前払いの日々から、一人のおばあちゃんとの出会いへ

入行直後、碇山頭取は営業の壁に打ちのめされた。「夜8時ぐらいにご家族で食事をされている時間帯に訪問して、もちろん門前払い」。なかなか顧客を獲得できない日々が続いた。

そんなとき、一筋の光をくれたのが一人暮らしのおばあちゃんだった。「一生懸命回ってきたので、あなただったら預金してあげていい」。その言葉が、碇山頭取の原点になった。「感謝の言葉を言われるとやっててよかったなぁと最初に思った」。

もともと子ども時代は「意外と優等生」だったという碇山頭取だが、高校時代に転機が訪れた。バスケットボールを始めようとしたとき、先輩から「お前みたいな小さいやつはうまくならないからやめておけ」と言われた。その言葉が逆に火をつけた。「ちょっと悔しくて徹底的にやってやろうかなと」。この反骨心と粘り強さは、41年の銀行員人生を通じて変わらない碇山頭取の核心といえる。

バブル崩壊から30年、地方銀行が直面する「手詰まり感」

入行から時代は大きく変わった。碇山頭取はその変化をこう振り返る。「バブル崩壊からデフレの長い30年。その間に震災やコロナなど、いろいろな問題が起こった」。

そして今、鹿児島が直面しているのが人口減少と後継者不足の問題だ。「事業者側も若い後継の方がいなくて手詰まり感がある。銀行が少しお手伝いをしているところ」と碇山頭取は語る。

こうした課題に応えるため、鹿児島銀行は2023年に「かぎん共創投資」を立ち上げ、企業への「投資」に本格的に取り組み始めた。行員が企業に直接出向き、新店舗オープンや事業承継の戦略を一緒に考えるなど、従来の「貸し手」にとどまらない地域との関わりが生まれている。肥後銀行との経営統合から11年。コロナ禍、そして直近では中東情勢の悪化と、揺れ続ける時代のなかで、地方銀行の役割は確実に変わりつつある。

行員が企業に直接出向き、新店舗オープンや事業承継の戦略を一緒に考える様子
行員が企業に直接出向き、新店舗オープンや事業承継の戦略を一緒に考える様子

「最終的にはフェイス to フェイス」――AIの時代に問い直す銀行の本質

デジタル化が加速し、AIが業務を担う場面が増えるなかで、碇山頭取は銀行員としての本質的な価値を問い直す。「事務的なものはAIが担うので、事務員の仕事がなくなっていくのかもしれないが最終的にはフェイス to フェイスで、お客さまと決断をする役割はAIではないのではないか」。

テクノロジーに代替できない「人とのつながり」こそ、碇山頭取が最も大切にするものだ。一人暮らしのおばあちゃんに「あなただったら」と言ってもらえた原体験が、41年後のいまも頭取の判断軸の根底にある。

若手を引き上げ、躍動感ある銀行へ

碇山頭取が頭取として今後目指すのは、組織の若返りと活性化だ。「銀行の若手経営陣を早く引き上げたい。多少失敗してもいいから躍動感ある仕事をしようと伝えている」。

失敗を恐れず挑戦できる風土をつくること。それが人口減少という構造的な課題に立ち向かう鹿児島の地域経済を支えていく、という確信があるのだろう。

そして碇山頭取が常に心に留めている言葉がある。「感謝の気持ちを持ち、恩には報いなさい」。入行当時、門前払いされながらも続けた夜回り営業、そして一人のおばあちゃんからかけてもらった言葉――その積み重ねが、いまの頭取を形づくっている。

頭取就任を祝うコチョウランがずらりと並ぶ執務室で、碇山浩美頭取は静かに、しかし力強く語った。「人と人とのつながり」を胸に、鹿児島銀行の新たな章が始まった。

【動画で見る▶鹿児島銀行・碇山新頭取 今求められる地方銀行の役割は?】

鹿児島テレビ
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