イヌワシと言えば、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスのチーム名としておなじみですが、絶滅危惧種で実は野生の個体は、現在、宮城県内に定着していません。
そんな状況を打破しようと、動物園で生まれたイヌワシのヒナを、野生に復帰させようというプロジェクトがいま、南三陸地域を中心に進んでいます。
石巻市と南三陸町にまたがる、大盤平と呼ばれる牧草地です。
鈴木卓也さんは、南三陸地域から姿を消したイヌワシを、もう一度復活させる活動に取り組んでいます。
南三陸イヌワシ野生復帰プロジェクト統括 鈴木卓也さん
「トビはちょくちょく飛ぶんですけどね、他の猛禽類は全然飛ばないですね。トビが飛ぶってことは、気流が割といいと思うので、他のも飛ぶ可能性は高いと思うんですけどね」
この場所は、晴れていれば北は岩手県境、南は石巻・東松島まで見渡せる高台です。
鈴木さんは少なくとも毎月1回はここを訪れ、イヌワシの姿を探しています。
オスとメスのつがいで行動するイヌワシ。特に宮城県内の北上山地では、2000年代半ばごろ、気仙沼から石巻・女川にかけてのいわゆる「南三陸エリア」で、4組が確認されていました。
鈴木卓也さん
「(ここは)上品山、翁倉山と、入谷と徳仙丈山と4つ(組)のペアがかつていた山そのものは見える感じの場所ですね」
―でも今となっては、見えるわけではない?
「そうです、どこのペアもいなくなってしまって定着しているイヌワシは、今いない状態ですね」
イヌワシは、国の天然記念物。オスよりもメスの方が大きく、翼を広げると、2メートル前後にも達する大型の猛禽類です。
国内でも特に東北から北陸にかけての深い山あいに生息していますが、近年は減少傾向にあります。
日本イヌワシ研究会によりますと、生息数は全国で500羽以下。過去30年で繁殖ペアの3割が消失したと言われ、絶滅危惧種でもあります。
50年以上前の1972年に保護されたイヌワシです。仙台放送のライブラリーに映像が残っていました。
場所は、現在の石巻市北上町にある追分温泉。実は宮城県は、イヌワシが里山で暮らす貴重な場所でした。
鈴木卓也さん
「2011年まではペアの定着が見られていたんですけど、それ以降震災を挟んで2012年からは、いわゆるきちんと定着しているペアというのは、全く見られていないですね」
ただ、イヌワシの定着が見られなくなったことと、東日本大震災の発生に、直接の因果関係はないと鈴木さんは言います。
鈴木卓也さん
「イヌワシは体の大きな鳥なので、彼らがノウサギとかヤマドリとか獲物を襲うには、どうしても開けた山の環境が必要なんですけど、開けた山の環境がなくなってしまったことで餌を取れない」
鈴木さんたちの調査によると、南三陸エリアでは1970年代、イヌワシが餌を探すのに適した開けた場所が、4200ヘクタールありました。しかし、林業の衰退などもあり、2000年代初頭には半分以下の1700ヘクタールまで減少。イヌワシにとって、餌が取りにくい山が増えました。
鈴木さんたちは、有志とともに2014年から生息環境の再生活動を始めています。
イヌワシにとって暮らしやすい山の環境は徐々に整いつつありますが、イヌワシを呼び戻すことはできません。
そこで今、進められているのが、動物園で繁殖したイヌワシを野生に返すという、「イヌワシ野生復帰プロジェクト」です。
秋田市の大森山動物園などが協力し、動物園でかえったひなを宮城に移送し、野生復帰させるというプロジェクト。
日本国内ではコウノトリや、トキの例はありますが、イヌワシは日本で初めての試みとなります。
秋田市大森山動物園 三浦匡哉さん
「イヌワシが危機的な状況に陥った時に、飼育下のイヌワシで、何かお手伝いできることはないのかなというのは、前から考えていた」
移送されたひなは、専用の小屋で飼育し、生まれて10週間から12週間をめどに、山へ放つことにしています。
三浦匡哉さん
「ある程度までいけばやっぱり自分で餌を取らないといけなくなってくるので、そこですよね」
鈴木さんも、ひなを自然の野山に放つことに不安を感じながらも、その意義をこう話します。
鈴木卓也さん
「生き物のことなので、ペットではないので、厳しい自然の中でちゃんと生き残っていけるかとか、様々なリスクも抱えながらの事業ではあるんですけど、でもこのまま何もしないで手をこまねいていたら、野生のイヌワシは本当に厳しい。10年、15年後に日本から消えてしまう可能性もあるのかなって」
南三陸町の小学校で、特別授業を行った鈴木さん。
鈴木卓也さん
「南三陸町だけじゃなく、気仙沼市とか登米市とか、石巻市それから女川町まで含めて、この地域で全部で4つのつがい=4ペアのイヌワシが見つかりました」
南三陸で生まれ育ち、小学生の時に経験したイヌワシとの出会いを、今の子供達にも体験してほしい…鈴木さんはそんな気持ちで活動しています。
鈴木卓也さん
「初めてちゃんとこれがイヌワシだって自分で見られたのは小学6年生の時だったんですけれど、かっこいいなと思った大きな鳥が、自分たちのふるさとの山にはいるんだ、暮らせるだけの豊かさがあるんだというのは誇りですよね。ですので今の子供達、小学生とかにもそういった原体験ができる環境は残してあげたい」
南三陸を中心とした北上山地に、イヌワシは再び定着するのか?放鳥は、6月ごろを予定しています。
鈴木さんたちは、プロジェクトにかかる費用の一部1200万円をクラウドファンディングで募っています。期限は3月26日(木)の午後11時となっています。
詳しい情報は「イヌワシクラファン」で検索、ご確認ください。