3月14日朝、記者のもとに1本の電話がかかってきた。
「サクラが咲きました!」
弾んだ声の主は、広島市植物公園で開花促成に挑んできた濱谷修一さん。雪の中から始まった挑戦は、ついに最初の一輪へたどり着いた。
待ち続けた開花に「ほっとした」
電話を受けた向井智美記者が現地に向かうと、ソメイヨシノの枝先に小さな変化があった。芽はふくらみ、ほんのりとピンク色を帯びている。そして、確かに一輪、花が開いていた。
濱谷さんは朝の様子を振り返る。
「今朝見たら、ついに咲いていました」
待ち続けた開花。
「さすがにほっとしました。この1週間くらい、まだかまだかという感じだったので…」
安堵の表情がにじむ。
38年ぶりの挑戦、雪の中から
広島市植物公園では開園50年に合わせ、38年ぶりに「サクラの開花促成」に挑戦している。植物の特性を生かして本来よりも早く花を咲かせる取り組みだ。
作業が始まったのは2月上旬。雪が積もり、園内に雪だるまが作られるほどの日だった。
サクラは、冬の寒さで目を覚まし、春先の気温上昇で花を開く性質がある。この仕組みを利用し、木の周りをシートで囲み暖かさを保つことで「春が来た」と勘違いさせるのだ。
満開目標は、3月20日に始まる「さくらまつり」の初日。38年前の記録には、シートで覆われてから最長30日で満開になるというデータが残っている。今回は調整の幅を持たせるため、40日前から準備を進めてきた。
「成功させます!」
当初、濱谷さんはそう力強く語っていた。
早すぎても遅すぎてもダメ
しかし、コントロールは簡単ではなかった。暖かい日にはシート内が30度を超えることもあったそう。
「最初は早く膨らみすぎて慌てて幕を開けたら、今度は寒くなって成長がピタッと止まってしまって…」
暖めすぎると早く咲きすぎる。冷えれば成長が止まる。3月上旬、再び幕を閉めて温度を上げることにした。
「20日に向けてこのままもう少し囲い、急いで咲いてもらおうと思っています」
予測が難しい気候に計算を狂わされ、思い描いた通りには進まなかった。それでも、「満開」への思いは日々強まっている。
3月20日見ごろへ「悔しさも半分」
園を訪れた人も、満開を心待ちにしている。
「やっぱり満開でワッと花束みたいなのが見られるとうれしいですよね」
濱谷さんは、咲いた喜びと悔しさが入り混じる胸の内を明かす。
「とりあえず咲いてくれて良かった。3月20日に向けて、なんとか見ごろに持っていけそうな感じになってきた。でも、狙った時期に咲かせられなかったのは悔しい。半々ですね」
学生時代からチューリップやフリージアなど、さまざまな花の開花時期を変えることに挑んできた濱谷さん。だがサクラは今回が初めてだった。
ピンク色にふくらんだ枝先。サクラの開花は、ここから一気に広がっていきそうだ。
満開に向けて――“令和の花咲かおじさん”の挑戦は続いている。
(テレビ新広島)
