岩手県大船渡市の山林火災から1年。今も多くの住民が仮設住宅での生活を余儀なくされる中、失った我が家をどこに再建するか、深い葛藤と向き合いながら前に進む家族がいる。泉惠さん(46)一家の歩みを通して、被災地の現実と復興への思いを追った。
「40年の思い出が一瞬で」
大船渡市三陸町綾里のスーパーで買い物をする泉惠さん(46)。現在は家族4人で仮設住宅に暮らしている。1年前の出来事を振り返ると、今でも胸が痛むという。
「燃えてしまった山の様子を見ると、本当にあの日の出来事はすごく悲しく、色々な思いを抱かせる出来事」と、時折声を詰まらせながらゆっくりと話す泉さん。
火災前、泉さんは40年以上前に両親が建てた綾里・石浜地区の家をリフォームし、夫や長男・長女と共に穏やかに暮らしていた。
2025年2月26日に発生した大規模山林火災は、その平穏な日常を奪い去った。
避難指示解除後、12日ぶりに戻った家族が目にしたのは、ほとんど跡形もなく焼け落ちた我が家の姿だった。
泉惠さん(2025年3月):
最初に来た時に、何か残っているのではないかと必死で探した。この様子を見て、とても探せないなと思って。できれば、これまでと同じように自然に囲まれたこの場所で、家族みんなで肩を寄せ合いながら暮らしたいというのが、一つの夢です。
「子どもたちの成長が希望に」
火災後の3カ月間は避難所生活を余儀なくされた。そんな中、家族の希望となったのは子どもたちの成長だった。
長女の佳澄さんは2025年4月に中学校に入学。
購入していた制服は火災で焼けてしまったが、市内の衣料品店が無償で提供してくれた。
「新しい勉強や部活が始まるので、そこに力を入れて頑張っていきたい」と前向きな佳澄さん。
小学4年の長男・実輝さんは、火災をきっかけに“後悔のないように生きたい”と考え、喘息で諦めていた野球を始めた。
「仮設住宅での新たな日常」
2025年5月、市内に仮設住宅が整備され、泉さん一家もようやく家族だけの「居場所」を取り戻した。
ただ、間取りは3Kで決して広いとは言えない。
泉惠さん:
もっと自由に、のびのび過ごせる空間ならありがたかったなと思う時もある。その反面、避難所での生活を考えると、本当に仮設住宅での家族で過ごす時間のありがたさも感じられる。
子どもたちと思い出話は仮設住宅でも話すという。「その時はやっぱり悲しさよりも楽しかった思い出をみんなで思い出して、笑いながら語り合えている」という。
「苦渋の決断、移転を選択」
山林火災の発生から1年、被災した地域の風景は少しずつ変化している。
泉さんが生まれ育った自宅跡地は2025年9月、公費による解体が終わりさら地となっていた。
当初はここで自宅を再建するつもりだったが、火災で森林が焼け、周辺で土砂崩れがみられるなど安全性が低下していると判断し、苦渋の決断をした。
別の土地で自宅を再建することにしたのだ。
新たな生活の拠点に選んだのは、元の自宅から約7km離れた大船渡市の蛸ノ浦地区。2025年に亡くなった叔父から譲り受けた土地だ。
泉さんは「常に元の場所への思いが強くあって、こちらの場所への再建を考えてからも本当に毎日心が揺れ動く日々を過ごしたし、ここに建てる決断をするまでに相当な時間がかかった」と葛藤した日々を振り返った。
「多くの世帯が移転を検討」
再建場所に頭を悩ませているのは、泉さん一家だけではない。
市が2025年9月から10月に行った意向調査では、自宅が全焼するなどした60世帯のうち「被災前と同じ場所で自宅を再建する」と答えたのは17世帯で全体の28.3%にとどまった。
違う場所で再建すると答えたのは26.7%で、多くが「土砂災害警戒区域」のため移転を決めたという。
「建築費高騰という新たな壁」
泉さん一家は2025年12月から住宅メーカーと打ち合わせを重ね、新居は2026年秋ごろ完成予定だ。
しかし「建築費の高騰」という難題が立ちはだかる。
公的な支援金や全国からの義援金などが入ったとはいえ、自己負担の金額は決して小さくない。
泉惠さん:
物価高で本当に日常生活も大変なこの時期に、家を建てなくちゃいけないという大きな不安もあり、実際想像する以上に費用がかかることに驚いている。
それでも2月27日は新居の「地鎮祭」。元の暮らしを取り戻すため歩みを進めている。
泉さんは「本当に家族の心のよりどころになる、あったかい場所になればいいと思う」と話す。
「心の復興への願い」
山林火災から1年、ふるさとを愛する思いは変わらないと語る泉さん。一日も早い町全体の復興を願っている。
泉惠さん:
まだまだこの火災の爪痕というのは消えないでしょうが、少しずつ私も含め皆さんが日常生活を前のように取り戻して、まち並みも少しずつ変わっていってほしいし、何より心の復興を本当にできるような、そんな日々が一日も早く訪れることを願っています。
静かな声の奥に、切実な祈りのような力強さが響いていた。
