陸上養殖業の生命線の1つに「酸素」の管理がある。万が一、酸欠状態に陥ればわずか数時間で数千万円もの損害が発生することもあるという。

「魚は無事か、酸素は足りているか」―。そんな不安を常に抱えながら働く心理的負担を解決しようと、テクノロジーで挑むアトツギがいる。

佐伯市蒲江で50年以上続く高瀬水産の3代目で元銀行員というキャリアを持つ高瀬温大さんだ。目指すのは家業だけでなく業界全体の未来を変える可能性を秘めた「養殖のDX」。その挑戦を追った。

50年の歴史を継ぐ、高瀬水産

佐伯市蒲江に拠点を置く高瀬水産は、創業から50年以上にわたり、とらふぐやサクラマスの陸上養殖と加工業を営んできた。

その歴史ある家業を継いだのが、3代目アトツギの高瀬温大さんだ。

大分の新ブランド「かぼすフグ」

現在、主力として養殖しているのは、2022年に誕生した大分のブランド魚「かぼすフグ」である。

カボスの皮を混ぜた特別なエサで育てることにより、身が引き締まり、上品でさっぱりとした味わいになるのが特徴だ。

養殖技術の発達は目覚ましく、短期間で2キロを超える特大サイズにまで育てることが可能になったという。

その高い品質が評価され、販路は県内の飲食店にとどまらない。東京の飲食店や、中にはミシュランガイドに掲載される店へも卸されている。

旬の時期には珍味である白子も乗り、ほとんど捨てる部位がないという価値の高い魚だ。

業界が抱える課題「酸素」の管理

しかし、この陸上養殖業が常に気にしなければならないリスクがある。それは「酸素」の管理だ。

陸上養殖では、魚を効率的に育てるため自然界よりも高密度で飼育する。そうなると、自然の海水に含まれる酸素だけでは、魚が生きていくには足りない。

そのため、人工的に酸素を供給し、水中の酸素量を常に最適な状態に調節する必要がある。

だが、ほとんどの業者が簡易的な装置を使用しているのが現状であり、酸素の管理には多大なコストと労力がかかっている。

万が一、酸欠状態に陥れば、被害は甚大だ。わずか数時間で数千万円もの損害が発生することもあるという。

毎日ヒヤヒヤ

――高瀬温大さん「魚が生きてるか酸素が足りてるかっていうのをずっと頭の中でモヤモヤしながら、毎朝起きて、朝真っ暗の中点検して、毎日ヒヤヒヤしながら」

この経済的なリスク、そして働く人々の心理的な負担は、養殖業が抱える共通の課題なのである。

異色のキャリアからアトツギに

なぜ温大さんは、この根深い課題の解決に乗り出したのか。その背景には、彼の異色のキャリアが関係している。

温大さんは2年前まで銀行員として働き、企業を支援する部署に所属していた。

その経験を通じて、持続可能な養殖業を実現するためには、生命線である「酸素」の安定供給と管理が不可欠であるという発想にたどり着いたのだ。

革命を起こす「酸素自動制御装置」の開発

そこで温大さんが今、心血を注いでいるのが、養殖業界に革命を起こす可能性を秘めた「海水の酸素を自動制御する装置」の開発だ。

高瀬さんによると特に大分県内では、常に新鮮な海水を取り込む「かけ流し」の養殖が多い。水質悪化が起こりにくいといったメリットがある一方で、赤潮の発生など常に変化する海の状況に対応する必要がある。

そこで、取り込んでくる外海の温度や酸素濃度などを測定した上で、いけす内の酸素濃度を自動調整する新しい装置の開発を目指している。

これらを一貫して自動化することができれば低コストで24時間、安全に酸素濃度を管理することができるようになる。

養殖業の従事者がぐっする眠るために

――高瀬温大さん「自動になれば、まず夜ぐっすり眠れるかなっていうところですね。働いてる人の心理的な負担も軽減できるかなと」

負担軽減だけでなく、経営の効率化にも直結する。現在、高瀬水産では56あるいけすを2~3人で管理しているが、この装置が導入されれば、人員を増やすことなく規模を拡大できると見込んでいる。

先代の期待

家業の発展にとどまらず、業界全体の未来を見据える息子の挑戦を、父であり先代の興治さんは温かく見守る。

――高瀬興治さん「今からの時代は養殖も変化はしていかなければいけなくなると思う。どうしても生き物相手なんで失敗すればそれなりのリスクはありますし。今から絶対必要になるところと思うので、いい形で導入できればいいと思います」

見据える未来図

養殖のDXという大きなテーマに挑む温大さん。彼が見据える未来図とはどのようなものか。

――高瀬温大さん「頭の中で考えている機械をまず実現させること。ほかの養殖業者さんにも広めないとやっぱり意味がないので、何が大事かっていうのをちゃんと伝える。やることはたくさんあるんですけど、1つ1つ潰しながらやっていきたいと思ってます」

50年続く伝統の養殖業に、銀行員という異色の経歴を持つ3代目がもたらす革新。

この挑戦が、日本の養殖業に新しいスタンダードを築く日も、そう遠くないのかもしれない。

テレビ大分
テレビ大分

大分の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。