IWC脱退は正しかったのか?「おクジラさま」監督に聞く

カテゴリ:ワールド

  • 日本がIWC脱退と商業捕鯨再開を表明
  • 映画「おクジラさま」の佐々木芽生監督にインタビュー
  • IWCの存在意義と「グローバル対ローカル」の価値観の対立とは

日本がIWC脱退

日本がIWC=国際捕鯨委員会の脱退と商業捕鯨再開を表明してから、10日余りがたったが、いまだ国内外で賛否両論が尽きない。果たして日本の決断は正しかったのだろうか?捕鯨問題を扱った映画「おクジラさま」の監督で、ニューヨークを拠点に捕鯨論争の最前線であるIWCを取材してきた佐々木芽生氏に、フジテレビ解説委員の鈴木款が聞いた。

2014年IWC総会を取材中の佐々木監督

鈴木:
佐々木監督が「おクジラさま」を撮影しようと決めたきっかけは、和歌山県太地町のイルカ漁を取り上げて、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「ザ・コーブ」(2009年アメリカ)でした(詳細はこちらhttps://www.houdoukyoku.jp/posts/14776)。

あの映画が上映された当時、日本の捕鯨やイルカ漁は世界的に非難されましたが、今回のIWC脱退には反捕鯨国のみならず日本国内でも批判の声があがっています。ただ、そもそもIWCとはどんな組織なのか、そのへんがよくわかっていない国民が多いというのも事実です。

佐々木:
私が初めてIWC総会を取材したのは、2002年の下関です。日本のテレビ番組用の取材でしたが、「こんなにひどい国際会議があるのか」と当時びっくりしました。と言うのも、捕鯨賛成派と反対派に分かれてお互い罵り合い、総会の途中でアイスランドの代表が怒って退席したとか、それは見ていて面白いですよ(笑)。でも「こんなのでいいんですか」というくらい驚いたのが最初です。

その後は、「おクジラさま」の製作のために、2010年のモロッコ、2014年のスロベニアでの総会を取材しました。

反対派と賛成派がリクルート合戦

9月にブラジルで開催されたIWC総会

鈴木:
2002年から12年間の間に、IWCはどんなふうに変わりましたか?

佐々木:
加盟国数がどんどん増えてきて、確か2002年の時には50か国以下だったんですけど、去年のブラジルの時には89か国が加盟しました。ただ、89か国のうち、捕鯨に関係する国はわずか7か国。商業捕鯨を行っているノルウェーとアイスランド、調査捕鯨の日本、先住民生存捕鯨として、イヌイットを抱えるアメリカ、ロシアとデンマーク、あとセントヴィンセント・グレナーディンというカリブ海の小さな国。加盟国の中にはモンゴルなど海に面していない国や、捕鯨に全く関係ないアフリカ諸国が入っています。捕鯨反対派と賛成派が、それぞれ票を獲得するためにリクルート合戦を続けてきた結果です。

鈴木:
船頭が多くなれば、まとまるものもまとまらなくなりますよね。

佐々木:
鯨を捕りたい国と保護したい国が、まったく正反対のゴールをもって集まるわけなので、合意になんか到達できるわけがないです。かつて国連で小型武器拡散防止の国際会議を取材した際は、参加国全員が合意に達するように、合意文の細かい言い回しを徹夜で詰めてました。IWCの人たちはそういったことが一切ありません。ただわーと来て、お互いに言いたいことを言って、さようならと。それが繰り返されているんです。総会に反捕鯨国から来る代表は、環境関係の政府機関や団体です。一方日本やノルウェーは、水産関係の代表者が来るわけです。話がかみ合うわけないです。茶番ですよ、本当に。

IWCに加盟すればいいというものではない

鈴木:
そういうIWCから脱退する日本の決断について、佐々木監督はイエス(賛成)、ノー(反対)でいうとどちらですか?

佐々木:
間違いなくイエスですね。私はIWCという組織の存続の意義を問わないとダメだと思いますよ。日本国内ではIWC脱退を問題視して批判していますよね。でもまず世界が問題としているのは、IWC脱退ではなく、商業捕鯨の再開です。

鈴木:
日本人はIWCがどういった組織なのかよく知りませんし、今回の脱退表明の報道を受けて、世界大戦の時の国際連盟脱退とイメージを重ねる向きもあります。

佐々木:
そういうのとは全然違いますよ。アイスランドのようにIWCを一回脱退して戻ってきている国もあるわけで、一度脱退したら取り返しがつかないわけじゃありません。IWCに加盟していなくても捕鯨をしているカナダやインドネシアもあります。だからIWCに加盟すればいいというものではありません。

そもそも終戦直後に国際捕鯨取締条約(※IWCはこの条約を基に設立)ができたのは、各国が捕鯨を行っていて、「このまま鯨資源が枯渇しないよう、捕り続けられるようにしましょうね」ということからでした。しかし加盟国がどんどん鯨を捕らないほうに変わっていったので、本来のIWCの目的から外れていったのですね。ですから今こそIWCそのものの存在意義を問うべきだと思うんです。

鈴木:
参加国でいうと、捕鯨支持が41か国で、捕鯨反対が49か国と言われていますが、これまでの日本の活動はどうご覧になってきましたか? 

佐々木:
水産庁の人たちが政府代表として総会に向け、ち密に準備されているのを見てきました。でもやっぱり欠けているのは、マスコミへの対応ですね。驚いたのは、2010年のモロッコでの総会は、カメラ取材に行ったら、記者会見に日本人しか入れない。外国人ジャーナリストが日本政府の人にインタビューを申し込んでも、ほとんど断られると不平をもらしていました。14年のスロベニア総会では、スロベニア人のカメラマンと一緒に行ったら、事務局の方から「ちょっとすみませんが違和感があるので退出してください」と言われ、退出させられたんです。その際の映像もありますよ。情報発信以前の問題です。

日本の対応は間違っている

映画「おクジラさま」より

鈴木:
2010年は反捕鯨映画「ザ・コーブ」がアカデミー賞を取って、世界的に日本の捕鯨やイルカ漁に批判が集まった年です。そんな時こそ、日本は世界のメディアを集めて積極的に反論をしないといけないのに、なぜそこまで内向きになってしまうのでしょうか。

佐々木:
間違いなく日本の対応は間違っています。もはやIWC脱退以前の、伝え方、コミュニケーションの問題ですよ。海外に対しても、日本国民に対しても、政府は説明責任があると思います。これだけ批判されているのに、IWC脱退して、しかも商業捕鯨を再開するのなら、本当に周到な説明が必要だと思いますよ。

鈴木:
周到な説明とは?

佐々木:
今回まずいなと思ったのは、菅官房長官が脱退を発表した際に「科学的根拠に基づいて」と言ってましたが、その具体的な数字を示さなかったことです。北西太平洋でミンククジラを捕るのだったら、生息数がどのくらいいて、自分たちはこれくらい捕るというような。そういう説明の仕方をすれば納得すると思いますが、「科学的根拠」と言っても曖昧だし、何の根拠なのかわからない。商業捕鯨と言っても、どのようなスケールで、商業として持続的に続けていけるのかということですよね。

鈴木:
今後日本は沿岸部だけで捕鯨をすると言っていますが、これについてはどう思いますか。

佐々木:
なぜ日本の捕鯨が反対されるかというと、大きく2つの理由があります。

1つは南極海で捕っていること。ここはサンクチュアリ(保護区)なのに、日本だけそこで捕っている。山本太郎議員が言ってましたが、野鳥保護区で鳥を撃ち落として焼き鳥にして食べているようなものだと、笑。そういう感覚ですよ。

2つめは、しかもその捕鯨を調査だと言っている。実は商業捕鯨だと言うところを、調査捕鯨だと科学の名前を借りて捕っているというところが非難される理由です。

ノルウェーだってアイスランドだって商業捕鯨をやっているわけですが、自分たちの海域内で捕っているから、ほとんど文句を言われない。しかも絶滅危惧種の鯨を獲ってるわけではないので。

鈴木:
そう考えると、日本が沿岸だけで商業捕鯨するのは、反捕鯨国から見ても「許容範囲」になるかと。

佐々木:
ただ再開する前に、科学的根拠を具体的に、どれだけ資源数があって、これだけ捕っても大丈夫だと、環境に悪影響がないときちんと証明することが必要です。

そして国内に対しては、それが商業・ビジネスとして成り立つのかを、きちんと説明する必要があるのではないでしょうか。つまり政府の補助金無しに続けられるのかということです。国民の税金まで使ってやらなきゃいけない商業捕鯨なんてありえないですから。

映画「おクジラさま」より

「捕鯨は日本の伝統」は乱暴

映画「おクジラさま」より

鈴木:
今回のIWC脱退で、日本国内にも捕鯨に対して反対する声が増えたような気がします。

佐々木:
その反応には、私も驚きました。これまでは、シーシェパードのような外国人が「止めろ」と圧力かけてきて、これに対する反発が大きかったわけですよ。「自分は鯨を食べないけど、外国人にそんなことを言われるのは嫌だから捕鯨賛成だ」と。ただ今回は一部の政治家の強引な動きでIWCを勝手に脱退しているように見えているので、「何で捕鯨を続ける必要があるのか」とすごく不満が広がったのではないかと。

鈴木:
実際鯨肉の消費量は、ピーク時より激減しています。若い世代はもはや鯨を食べるの?という感じです。ですから「そもそもいま鯨肉を食べていないのだから、国際的に批判されているのに捕鯨を続ける意味があるのか」と。

佐々木:
日本人が鯨肉を食べていないといわれますが、食べている人もいるんです。ある一定年齢以上の人はいまも鯨肉を食べたいという人もいるわけだし、地域によっては和歌山県太地町のように、捕鯨だけでなく鯨祭りや歌や踊りがあり、その伝統文化を大事にする人たちもいるわけですよ。そういう意味では、先住民生存捕鯨と同じような意味があると思うんです。ただ、だからと言って「捕鯨は日本の伝統です」というのは乱暴なくくりだと思います。そうではなくて本当に控えめに、「いま日本人で鯨肉を食べる人は限られています。しかし縄文時代から食べてきた歴史があって、いまもわずかですが、そうした文化が残っている地域があるんです」と。

アメリカだってアラスカのイヌイットは鯨を捕りますけど、だからと言って「アメリカ人はクジラを捕ります」とは言わないですよね。アメリカの中に捕鯨で生活したいという人たちがいるので、アメリカが国としてその人たちの権利を守りますと。日本も同じだと思うんですよ。

鈴木:
日本はゼロか100かになっちゃうんですよね。

佐々木:
それがまさに「おクジラさま」のテーマである、「グローバル対ローカル」の価値観の対立なのです。東京の人たちはグローバルに目が向いているから、自分たちは食べないし世界からこんなに非難されているし、だから「いいじゃないの、捕鯨なんか」となっちゃうわけですよ。しかし太地町の人たちや、鯨肉を食べている人たちはいまでも西日本には多いですよね。私は太地町みたいに小さな町を、国として守ることはすごく大切だと思います。しかし、それを「国の伝統文化だ」という発信の仕方は、理解を得られないしすごく損をしていると思います。

鈴木:
確かに今回のIWC脱退は、日本の国としての情報発信力・コミュニケーション力が試されていると思います。ありがとうございました。

(フジテレビ 解説委員 鈴木款)