“トランプ側が書いた”? トランプ大統領批判記事

「あれはトランプか、彼の手下が書いたものだと思うよ」

ドキュメンタリー映画監督で反トランプ急先鋒の文化人として知られるマイケル・ムーア氏が13日、自身の新作「華氏11/9」のプレミア公演の際に記者団にこう語った。

「あれ」とは、6日ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された匿名のトランプ大統領批判の論評記事のことだ。筆者はトランプ政権の高官であることを明らかにした上で、トランプ大統領は「傲慢で、敵対的で、狭量で、役立たず」であるとして大統領の職務を全うする能力に欠けるので、合衆国憲法修正25条を適用して大統領の権限と義務を剥奪すべきだと主張している。

トランプ大統領の批判記事を掲載したニューヨークタイムズ紙(6日・ネット版)
トランプ大統領の批判記事を掲載したニューヨークタイムズ紙(6日・ネット版)
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政権内からの告発ということで衝撃は大きく、ホワイトハウスで犯人探しが行われていると伝えられていたが、ムーア氏は大統領が仕組んだ謀略ではないかとこう言った。

「彼(大統領)は世論を誤った方向に導く王様だ。彼は人々が背を向けるようなことをを仕掛けることに長けている。その意味で今回の論評記事で人々に最も信じ込ませたかった言葉は『心配することはない。部屋には大人達が居るから』というところだろう」

これは匿名の筆者がトランプ政権の誤りを列挙した後「これは冷酷な現実なのだが心配することはない。部屋には大人達が居るから」としている部分のことだ。

「部屋の中の大人達」というのは「影の実力者」という意味で使われる表現で、この場合ならトランプ大統領がどんな無茶を押し通そうとしても「部屋(ホワイトハウス)の中の成熟した常識ある成人の勢力がそれを阻止するので安心しなさい」と言ったと受け取られている。

 
 

「ディープステート」が暗躍?

しかし、それはホワイトハウス内に大統領に従わない勢力があることを告白したことに他ならない。かねてトランプ大統領は政権を転覆させようとする民主党、官僚、情報機関の反対分子による「ディープステート(国家内国家)」が暗躍していると言っていたが、FOXニュースは「この匿名の論評記事はディープステートの悪党どもが国民の意思に反した活動していることを明らかにした」と糾弾した。

ムーア氏がこの告白を「大統領の陰謀」と言ったのは、この論評記事が反トランプ派にとって知られてはならないことを明らかにしてしまったので大統領に責任転嫁を図ったのではなかったか。

事実、ニューヨーク・タイムズ紙はこの論評記事について「我々は、筆者がトランプ政権の高官であること確認しているが、筆者を保護するために匿名を認めた」と付記しているので、やはり「部屋の大人」は自ら名乗り出たとしか思えない。

 
 

「ディープステート」とは、日本で言えば戦前政府の方針に従わずに暴走して満州事変を引き起こした関東軍のような存在を言うが、米国の場合、すでに連邦捜査局(FBI)の幹部がトランプ政権の捜査情報をリークしたり、国務省でもトランプ大統領が指名登用した幹部職員に対して嫌がらせの中傷が行われたりしていると伝えられていた。
加えて今回ホワイトハウスという「本丸」でも抵抗勢力が見つかったことで、「ディープステート」はフェイクニュース(嘘ニュース)ではなく現実に存在することが証明されたようだ。

トランプ政権に批判的なニューヨーク・タイムズ紙が、米国の「関東軍」の存在を暴露したのであれば皮肉としか言えない。

(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

(イラスト:さいとうひさし)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。