なぜ痴漢をしてしまうのか。4大卒の妻子持ちに痴漢が多い理由

カテゴリ:暮らし

  • 痴漢で一番多いのは4大卒で、妻子がいて、サラリーマンという層
  • 日常生活の中でストレスへの対処行動の1つとなっている事が多い
  • 痴漢の多くは本人にとって都合のいい「認知の歪み」を持っている

今週は秋の読書週間。ホウドウキョクでは「少し遠い世界のようでいて、実は身近に存在していること」について書かれた本を紹介していく。

『実は身近な物語』と題した特集・第三回目のテーマは「痴漢」。

痴漢の加害者と聞くと、どんなイメージを持つだろうか?

女性に相手にされない寂しい男、性欲をコントロールできない男、そんなイメージは全て間違いだと、『男が痴漢になる理由』の著者・斉藤章佳さんは言う。

東京・大田区の大森榎本クリニックで12年間に渡り痴漢や性犯罪の加害者の治療にあたっている、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤さんに話を聞いた。

ーー今回この本を書いたきっかけは何だったんですか?

痴漢に限らず性犯罪に関して世間で共有されている「加害者像」と「被害者像」があります。被害者像は化粧が派手で服やスカートの露出度が高くて、男性の加害者像は、モテなくて性欲を持て余しているとか、オタクだとか偏ったイメージがあって、実はこの偏ったイメージによって当事者たちは苦しんでいます。実際に治療に来る痴漢の加害者の方たちは、4大卒で、妻子がいて、サラリーマンが半数を占めるんです。

性犯罪をする人というのは特殊な人ではなくて、案外自分の隣に住んでいるとか道ですれ違う人だったりします。そういう性犯罪の被害者像・加害者像をデータを元に覆して、正しい理解をしてもらうために出しました。

あとはやはり日本で一番多い身近な性犯罪が痴漢だということもあります。

ーー具体的にクリニックに来院する患者さんで多い層はどんな人なんですか?

一番多い層はやはり、4大卒の妻子持ちでサラリーマンという層です。

痴漢の始め方で一番多いのは、偶然体の一部が触れてしまって、そこから始めてしまうという方が多いです。腕が触れるなり、手の甲が触れてしまった時にその柔らかさに衝撃を覚えて、そこから今度はすぐ手のひらでやるわけではなくて、能動的にぶつかったり、揺れに合わせてわからないように触れます。そこから実際に手を使って行動化するという形で徐々にエスカレートしていく人が多いです。

あとは他の人がやっているのを目撃して真似するという人もいます。女性が痴漢をされている様子を観察し、被害者が大声を上げないで普通に下車して行ったのを見て、「別に痴漢をやっても騒がれないんだ」「嫌がっているわけではないんだ」という都合のいい理解をしてしまい自分もやってみようと始める方がいるんですね。

ーー痴漢をしてしまう人は何を求めてやってしまうんですか?

そもそも、産まれた時に皆さん痴漢になろうとは思いませんよね。また、痴漢になりたくてなっている人もいません。社会の中で自らがストレスへの対処行動として学習していったものであるという定義を前提に考えていくと非常にわかりやすいと思います。

なぜそういう風に思ったかというと、外国人の方で痴漢で逮捕されて受診する方が増えていて、彼らは自分の母国では一切性犯罪歴がないんです。「日本に来てこの生活習慣(行き帰りの満員電車)の中で痴漢を覚えた」といいます。ただ、事前に海外でも日本の痴漢サイトで見たことはあったと。「CHIKAN」っていう単語は海外でも有名で、TSUNAMIとかと同じくらい有名らしいです。そして、日本に来て実行してしまったわけです。

つまり痴漢という依存症はアルコール依存症や薬物依存症とは違い、過去の生育歴とかPTSDとかが主要な発症原因ではなく、日常生活の中でストレスへの対処行動の1つとなっている事が多いです。家庭ではイクメンが求められていて、職場に行けばブラック企業があり、職場に対して尽くさないといけなかったり、つまり家庭でも職場でも自分を消して、従順に合わせて生活をしている合わせていくわけですよね。でも唯一満員電車の中は、気づかれずに自分の欲求を満たせる空間なわけです。

そんな状況で触ってしまって衝撃を覚えたという人は、簡単にハマってしまうという構造があると思います。

ーー痴漢をする多くの方が「認知の歪み」を隠し持っていると本で書かれていました。具体的にはどんな歪みなんですか?

痴漢をし続けていると、痴漢をすることへの緊張とか葛藤とかがなくなり、やることが当たり前になってきます。また、行為中の高揚感、行為終了後の罪悪感も薄らいできます。ドーパミンに耐性が出来るイメージです。そうすると人によっては、痴漢をやって腕を掴まれて引きずり出されたときに、その瞬間はなんで引きずり出されたかわからない人もいるんです。毎日の当たり前の習慣になっているんで。

痴漢を繰り返す中で、女性専用車両に乗ってない人は痴漢していいと本気で思っていた人もいました。その人は、女性専用車両じゃない車両で痴漢をして、捕まった時に彼が思ったのは「え?なんで?」だったそうです。「女性専用車両に乗ってないじゃん」と。

治療を受けて「認知の歪み」に気がついた例としては、女子高生7〜8人が喋りながらスマホを皆見ていて、電車内に立っているという良くある風景の中で、ある痴漢常習者はジロジロと見ていたそうです。その見てる行為に女子高生が気がつき車両を変えたのを見て「俺がいやらしい目でジロジロ見ていたから車両を変えたんだ」と思ったそうなんです。それは間違ってないですよね。
でも1人だけ気づかずにずっとスマホを操作していた子がいて「あ、この子は痴漢されたいんだ」と思ったそうです。

こういう現実の歪んだ捉え方をしてしまっているんです。我々から聞くと馬鹿らしいと思ってしまいますが、彼が見ている現実はまさにそういう現実なんです。これはいわゆる普通のサラリーマンの方ですよ。

他にも多いのが、上司から叱責されたり、部下から爪弾きにされたり、グループから排除されたり、長時間労働もありますし、残業代が払われないとか、色んなストレスを電車の中で発散してしまう人です。仕事がらみの認知の歪みは、「今週も仕事を頑張ったから俺は痴漢をしてもいい」とか。仕事関連のストレスが引き金になっている例は結構あります。

お笑い芸人の『どぶろっく』がよくやっていた、「もしかしてだけど〜♪」というネタをちゃんと「認知の歪み」で検証すると、男の勘違いというふうに思われるのかもしれませんが、あれこそまさに痴漢の人が思っている認知と同様の、認知の枠組みなんです。

つまり痴漢をしてしまう人にとって、自分が痴漢行為を継続するために本人にとって都合のいい認知の枠組みが、「認知の歪み」なんです。