歴代首相の在任期間

平成を代表する政治家とは誰だったのか。「平成政治家ランキング」というのを作ってみようと思う。立派な業績を残した人だけではない。良くも悪くも話題になった人、時代を象徴する人という意味で選んでみる。まず歴代首相とその在任期間(2019年5月31日現在)を挙げてみる。

竹下登 576日
宇野宗佑 69日
海部俊樹 818日
宮澤喜一 644日
細川護熙 263日
羽田孜 64日
村山富市 561日
橋本龍太郎932日
小渕恵三 616日
森喜朗 387日
小泉純一郎1980日
安倍晋三 366日
福田康夫 365日
麻生太郎 358日
鳩山由紀夫 266日
菅直人 452日
野田佳彦 482日
安倍晋三 2342日

31年間に17人が首相になっているが、2年以上務めた人は海部、橋本、小泉、安倍の4人だけ。3年以上は小泉、安倍。この2人の長さ、そして強さが突出していたことがわかる。まずこの2人のランキング入りは確定。

ワンフレーズポリティックスで話題の中心に

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小泉純一郎さんの一番の魅力は、乱暴なところだ

首相在任の5年5カ月の間、「自民党をぶっ壊す」「聖域なき構造改革」「骨太の方針」「郵政民営化」「感動した!」などのワンフレーズポリティクスで常に話題の中心であり続け、少なくともテレビ局としては平成最高、いや史上最高の視聴率を取れた首相であった。

小泉政権がユニークなのは自民党として初めて改革政党を名乗ったことだ。それまでは与野党は保革と呼ばれ、自民は保守で、社会、共産が革新だった。与党は古きよきものを守り、野党は改革し(革命?)新しくする。メディアは保守が悪であり、革新が善であるかのごとく伝えていた。小泉さんはこれをひっくり返した。野党のお株を奪ったのだ。

郵政、道路公団の民営化、派遣の規制緩和、三位一体改革、不良債権処理、医療制度改革などは新自由主義経済派による小さな政府の考え方であり、一般国民は熱狂的に支持した。ただ既得権益を奪われた人たちはカンカンに怒っていた。そして小泉さんの後、安倍、福田、麻生と弱い首相が1年交代で続き、その後民主党によりあっさり政権交代されてしまう。

小泉政権で閣僚をやり、安倍政権でも重要な役割を担う重鎮に「小泉政権の失敗って何ですか」と聞いたことがある。重鎮氏は「医療制度改革だな。あれはきつかった」と言った。「あれで自民党はぶっ壊れたし、政権取られたよ」と言っていた。当時年間5000億円、4年で2兆円を削ると小泉さんが言い出し、皆出来るわけないとバカにしながらも期待したものだった。小泉政権というのは万事そういう感じで粗削りでアバウトで細部を詰めていないことが多かった。

だから引退後に小泉さんが脱原発に転じてもあまり驚かなかった。むしろこの人が東日本大震災の後に首相にならなくてよかったとホッとした。もしそうだったら日本は原発ゼロの国になり、大混乱に陥っていただろう。歴史というのはうまく回るものだ。

強すぎてつまらない実力派横綱

さて小泉さんの後を継いだ安倍晋三さんは1回目は力が入りすぎて失敗したが、2回目は横綱相撲を取るようになった。小泉さんは技の多彩な大関で時には「けたぐり」や「うっちゃり」もする。それに比べて安倍さんは「寄り切り」「押し出し」の多い、客から見ると強すぎてつまらない実力派の横綱だ。

安倍さんの憲法9条改正など右寄りと言われる主張に対し(そもそも9条2項に自衛隊の維持を加えることが右寄りだとも思えないのだが)、左の人たちは反対しているのだが、実は安倍さんがこれまでやって来た政策は言われるほど右寄りではない。

批判が多かった秘密保護法や安保法制も普通の国にはある普通の法律だ。小さな政府にするための規制緩和も反対派の意見を聞きながらゆっくりすぎるほどのスピードでやっており小泉さんのように乱暴ではない。

ただ乱暴でない分、実現することが多いため、大きな政府を好きな人たちは頭にきているのかもしれない。左派は小泉より安倍を嫌いだ。

小泉と安倍という二人は「師弟」と呼んでいいのか、不思議な関係である。小泉さんは脱原発主義者だが、安倍さんに会うと「俺の言うことは気にするな」と言うらしい。脱原発は引退した自分の意見であり、それを安倍さんに無理強いするつもりはないという構えである。このあたりの小泉さんの分のわきまえ方というか、間合いの取り方はさすが天才である。

安倍さんも小泉さんのことは嫌いじゃない。ただ安倍さんは小泉さんは別世界にいる人、みたいな感じに思っている。

だから息子の進次郎さんは去年の総裁選で石破さんに投票したが、もし党内で安倍おろしになっても加わらないと思う。そして進次郎さんが加わらない安倍おろしは成功しない。進次郎さんが間違って安倍おろしに走ろうとしたら、その時は小泉さんが息子に「やめとけ」と言うだろう。そのあたりの動きは素早いと思う。天才だからだ。

「面白さ」では小泉さんの方がランクは上かもしれないが、国のリーダとして見るなら弟子が師を越えたのは間違いないので、やはり安倍さんを上にしよう。

影の首相

さてこの2人に次ぐ人は誰か。在任日数では、橋本、海部、宮沢、小渕と続くがどうもピリッとしない。面白味がないのだ。首相経験者以外にいないか。1人いた。自民党から2度政権を奪った小沢一郎さんは良くも悪くもランキング入りさせなければならない。海部、細川、鳩山政権の影の首相は小沢さんだった。つまり影の首相に3度もなっている。これはすごい。

この人の政権交代に対する執念を見られただけでも政治部に来てよかったと思うくらいだ。ということで、小泉、安倍、小沢の順。

風車に立ち向かうドンキホーテ

首相未経験でもう一人魅力的な政治家がいた。石原慎太郎さんだ。東京都知事として、ディーゼル規制、認証保育所など数々の実績があるが、一番はやはり東京五輪招致だろう。慎太郎さんが最初に言い出した時はみな馬鹿にしていたが、彼は風車に立ち向かうドンキホーテのごとく単身戦い続け、ついに東京は勝った。誘致の最大の功労者は間違いなく慎太郎さんだ。この人の言動は夢があっていい。楽しくなるのだ。小沢さんより上かな。

「見識はあるが人望なし」

次は橋本と小渕か。

橋下龍太郎さんは嫌われ者であった。記者会見での嫌みな受け答えは麻生さんの比ではなかった。「橋龍は怒る、威張る、すねる」とか「見識はあるが人望はない」などと悪口を言われていた。

首相としては消費税をきちんと上げ、省庁再編もやり、ロシアのエリツインと川奈合意を結んだ。

幹事長時代に選挙で負けて「チクショ-」とつぶやいたのをテレビ局のマイクに拾われてしまったのだが、これが男っぽくてかっこいいと女性の人気が上がった。個性的な面白い政治家だったが、首相を辞めた後68歳であっけなく亡くなってしまった。

「梶山は軍人、小泉は変人、小渕は凡人」

倒れる直前のぶら下がりで言葉を詰まらる瞬間の小渕首相(当時)
倒れる直前のぶら下がりで言葉を詰まらる瞬間の小渕首相(当時)

小渕恵三さんは就任時、最も祝福されなかった首相であった。田中真紀子さんに総裁選で戦った梶山静六、小泉純一郎両氏と比べられ「梶山は軍人、小泉は変人、小渕は凡人」とバカにされたり、米紙ニューヨークタイムズにも「冷めたピザ」と酷評された。垢ぬけない、パッとしない人だった。

しかし自自公連立で両院の多数を取った後は、周辺事態法、国旗国歌法、通信傍受法など難しい法律を次々に成立させ、韓国の金大中とは未来志向の日韓関係で合意した。

丸のみとか、真空とかバカにされながらやることはきちんとやった。それがある日突然倒れ、亡くなった。62歳。今の僕とほぼ同年齢だ。倒れる直前のぶら下がりで言葉に詰まった時の、あの悲しそうな顔を今でも思い出す。だから小渕さんが5位。橋龍さんはその次だ。

① 安倍
② 小泉
③ 石原
④ 小沢
⑤ 小渕
⑥ 橋本

これで6人。

6人は実力で選んだが、このランキングは「優れた政治家」に限っていない。となるとこの人は絶対入れたい。

薄っぺらいお殿様

細川護熙さんだ。
この人を初めて見たのは米国シアトルで開かれたAPECの初回サミットの時だった。マフラーをしていたのがそれはそれはかっこよかった。それまでサミットで日本の首相は失礼だがどなたも大変見栄えが悪く、英語はできないわ、時差ボケで眠いわで仏頂面が常であった。

それが品のいいお殿様みたいな顔の人がさっそうとマフラー巻いてきたので驚いたのだ。ただこの人はこれだけであった。国民福祉税構想のドタバタで化けの皮が剥がれ、さっさと辞めてしまった。薄っぺらい人だった。7位。

フツーの田舎のお爺さん

そして村山富市さん。
最初に見たのはイタリアのナポリだったが、フツーの田舎のお爺さんにしか見えなかった。それはそれで変な政治家臭がせず良いのだが、この人も素人だった。冷たいフルーツジュースを飲んでおなかを壊してしまい、この時のサミットでは使い物にならなかったのだが、自社さという禁じ手のような政権は村山さんの人柄だけでもっていた、という話を聞くと、まああのひどい村山談話以外は許してやってもいいか、という気になる。8位。

支持率が消費税と同じ数字に

竹下登さんは入れないとまずいだろう。若い頃から首相候補で満を持して就任したのに、消費税を導入した後、支持率が消費税の3%と同じくらいになってしまい、あっさり辞任してしまった。大物首相だと思っていたので拍子抜けした。たぶんスタイルが時代に合わなくなっていたのだろう。彼は昭和と平成をまたいだ首相だが、平成というより昭和最後の首相と呼ぶべきだ。9位。

「悪魔にひれ伏してでも」

肝心な人を忘れていた。僕の一番好きな政治家、野中広務さん。小沢さんの自由党と連立を組む時の「悪魔にひれ伏してでも」は政治家の平成ベストワンコメントである。悪魔と呼ばれた小沢さんも黙って連立に応じたのがかっこよかった。そして小渕政権の安保政策を転換させ周辺事態法が成立した。この辺りの緊張感あふれる展開はすぐれた脚本家によるドラマを見るようであった。

若い頃から苦労し、政治家として遅咲きだったからか、こういう激烈な言葉が似合う政治家だったが、同時に不器用で生真面目で、弱者へのやさしさにあふれた人でもあった。だから野中さんがやっぱり一番。他の人は1つずつずれてもらおう。
そうするとこうなる。一言ずつつけてみた。

僕の平成政治家ランキング
① 野中広務 優しさ
② 安倍晋三 外交
③ 小泉純一郎 天才
④ 石原慎太郎 東京
⑤ 小沢一郎 悪魔
⑥ 小渕恵三 泣き顔
⑦ 橋本龍太郎 チキショー
⑧ 細川護熙 マフラー
⑨ 村山富市 おなかいたい
⑩ 竹下登 昭和だわな

日本の政治よ、せめて二流へ

最近の政治家は個性がないと言う人がいるが、この10人、少なくとも個性だけは十分にある。首相に向いてなかった人もいるが、そんなに悪い顔ぶれではない。

平成は停滞の時代だったのかもしれない。平成元年に三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収した時、日本経済は米国を抜くのではないかと本気で思った。しかしその後日本はIT革命に乗り遅れて経済はじり貧になり、平成22年にはGDPで中国に抜かれ3位に落ちた。

その間、政治家たちは何もできなかった。日本は「経済一流、政治三流」と言われてきた。経済が強くて官僚も優秀なので政治はどうでもいい。政治は娯楽や見世物のようなもの、という国民の感覚が、実は政治家に本来の仕事をやらせてないのではないか。政治家に実力でなく個性だけを求めているのではないか。

日本の経済はもはや一流ではない。だとすれば日本の政治もせめて三流から二流くらいには上がらないと世界と戦っていけないだろう。政治には個性だけでなく実力も求めなければならない。

20回にわたって執筆した僕の「平成プロファイル、忘れられない取材」はこれでおしまいです。読んでくださった皆様、ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。