2025年のプロ野球、セ・リーグは阪神が両リーグ史上最速で優勝し、パ・リーグはソフトバンクが2年連続でリーグ制覇した。日本シリーズでは、第5戦の延長11回までもつれた熱戦を制したソフトバンクが5年ぶり12度目の日本一に輝いた。
フジテレビ系列12球団担当記者が、そんな2025年シーズンを独自の目線で球団別に振り返り、来たる2026年シーズンを展望する。

球団ワーストを更新する3年連続最下位と、苦境にあえいでいた中日。
昨季は井上一樹新監督のもと、シーズン終盤にはAクラス争いを演じたが、結果は4位。
それでも確かな手応えはあった。
今季に向け、監督が投打を支えた2人に寄せる「信頼」とは…

貫ききれなかった「どらポジ」。それでも希望が見えた2025年

「私自身が『どらネガ』、そんな月日があったのも確か」
本拠地最終戦後に行われたセレモニーで、指揮官・井上一樹(54)は反省を口にした。

最終戦セレモニーでシーズンを振り返る井上監督
最終戦セレモニーでシーズンを振り返る井上監督
この記事の画像(10枚)

3年連続最下位脱却に向け、掲げたチームスローガンは「どらポジ」。
常に明るく、前向きに。
現役時代は「ピンキー」という愛称で親しまれ、ムードメーカー的存在だった、まさに井上一樹“らしい”標語だった。

しかし、主砲として期待され、開幕4番を託した石川昂弥(24)の不振、セカンドのレギュラー筆頭だった福永裕基(29)の故障による長期離脱。
さらに、投手陣でも先発ローテとして計算していた柳裕也(31)の故障離脱に加え、見事セーブ王に輝いた新守護神・松山晋也(25)も一時離脱するなど、シーズンを通して「ネガティブ」なアクシデントが相次いだ。

さらには、13年ぶりのクライマックスシリーズ(以下、CS)進出が現実味を帯びてきたシーズン最終盤。「この試合に勝てば…」という試合で、勝ちきれない試合が多かった。
相次ぐアクシデント、そして大一番での勝負弱さ…
こうした負の出来事に直面し、井上は自ら掲げた「どらポジ」を忘れ、「どらネガ」になってしまう場面があったと振り返ったのであった。

それでもチームは、3年連続最下位を脱出し、4位でフィニッシュ。
シーズン最終盤には、熾烈(しれつ)なAクラス入り争いを演じるなど、かすかに希望も見えた1年だった。

「もう、落ち目なのかな」周囲の不安を払しょくさせたベテラン左腕の意地

11勝を挙げカムバック賞を受賞した大野
11勝を挙げカムバック賞を受賞した大野

「ここで終わるわけにはいかないという意地を今年は見せてくれたかな」
11勝を挙げ、「カムバック賞」を受賞した左腕の復活は、井上竜1年目を語るうえで欠かせないトピックである。

2025年9月に37歳の誕生日を迎えた、ベテラン大野雄大。
7月12日の広島戦では、9回にタイムリーを許し、完封とはならなかったものの、自身3年ぶりの完投勝利、さらに、連敗が続いていたチームを何度も救い、「連敗ストッパー」としての役割も果たすなど、終わってみればチームトップの11勝を挙げ、先発陣をけん引した。

過去2年間でわずか2勝と苦しい時期を送っていた大野だが、昨年1月の自主トレ後、迎えるシーズンへの並々ならぬ思いを語っていた。

昨年1月 京都市内で自主トレを終えた大野
昨年1月 京都市内で自主トレを終えた大野

大野雄大:
大野ってもう落ち目なのかって皆さんも思われているでしょうし、自分でも少し思っちゃう時もあるねんけど、(2024年に)納得できる球が投げられた試合もあったということは、そのパフォーマンスをまだ出せるということだから、そういう試合を増やしていけば、おのずと結果はついてくるかな。

ーー(ディレクター)具体的な目標は?
大野:

20試合ぐらいは、上(一軍)で先発したいよね。

その言葉通り、一軍で20試合に先発し、11勝4敗。防御率は2.10と、かつての沢村賞左腕は、見事に復活を遂げた。

大野はシーズン後の契約更改で、「充実した1年だったんですけど、カムバック賞をもらって終わりではなくて、まだまだ頑張るぞという気持ち」と、さらなる活躍を誓ったうえで、「2つ順位は上がりましたけど、借金はたくさんありますし、10月に熱い戦いができるように」と14年ぶりのCS進出への思いを口にした。

大野雄大 “復活”の裏にあった井上監督の叱責

2024年6月5日。
ソフトバンクとの二軍戦に先発した大野は、5回7失点の大炎上。
沢村賞を受賞したシーズンとは程遠いほど遠いピッチングだった大野は、試合終了後に当時二軍監督だった井上から全員の前で𠮟責(しっせき)を受けた。

大野:
みんなの前で名指しで言われるのは久々やったかな。相当情けないピッチングした自覚はあったし、へこんだね。

それでも、翌朝には、「昨日ああいうこと言ったけど、それでふてくされたり、悪い方向に捉えるやつじゃないと思ってるから言った」と井上がフォローし、大野は当時の出来事をうれしかったと振り返った。

井上が初めて二軍監督に就任した2011年。その年に、大野がドラフト1位ルーキーとしてプロキャリアをスタートさせた。
原点を知り、その成長過程を知っているからこそ、大野への思い入れはより一層強かった。

「俺がほかの選手より強めに言ったりするのは、俺と(大野)雄大の中での信頼関係があると思っているから」と語り、大野の復活には「うれしいよね」と笑みをこぼした。

試合前練習で談笑する井上監督(左)と大野(右)
試合前練習で談笑する井上監督(左)と大野(右)

12球団唯一の全試合フルイニング出場 「本物」を証明した若きリードオフマン

自身2度目の最多安打に4年連続のゴールデングラブ賞。
高卒6年目にして、日本球界屈指のリードオフマンへと成長した岡林勇希(23)だが、彼も昨年2月の沖縄キャンプで新シーズンへの思いを口にしていた。

昨年2月の沖縄キャンプで全体練習後に打撃練習を行う岡林
昨年2月の沖縄キャンプで全体練習後に打撃練習を行う岡林

「これだー!」「よし!いまの!」「あかーん!」
全体練習後、屋内練習場で感触を口にしながら、黙々とバットを振り続けていた。
居残りの自主練習を終えた岡林にカメラを向けると、「すごくいい状態に近づいているというか、むしろ一層上がっているんじゃないかと思います」と語っていた。
2024年は、けがで開幕に出遅れ、不完全燃焼の1年を送っただけに、2025年にかける思いの強さは相当なものだった。

昨年2月の沖縄キャンプ中、笑顔で取材に応じる岡林
昨年2月の沖縄キャンプ中、笑顔で取材に応じる岡林

その強い思いが実を結んだのか、充実の1年を送った岡林。
年俸も1億円を突破し、シーズン終了後には侍ジャパンにも召集された中で、特筆すべきは、昨季12球団で岡林だけが達成した「全試合フルイニング出場」。

快挙達成の裏には、ある「約束」があったことを指揮官が明かした。
「気が抜けたり、手を抜いたりということがあったときは、スパッと代えるぞ。そういったことがないなら、全試合全イニング使うぞっていう約束はした」、「とぼけたり、ちゃらけたりっていうところあるけど(笑)、俺は(岡林を)大人扱いしているつもり」と、岡林への信頼をあらわにした。

23歳の若きリードオフマンが遂げた成長は、指揮官にとって次なるシーズンに向けた大きな「どらポジ」要素だと語った。

昨季 最多安打のタイトル獲得など充実の1年を送った岡林
昨季 最多安打のタイトル獲得など充実の1年を送った岡林

球団創設90周年のメモリアルイヤー Aクラス、そして15年ぶりの優勝へ

井上は昨年末、東海テレビのドラゴンズ応援番組「ドラHOT+」(東海3県ローカル)に出演。番組の前半で監督として戦った最初のシーズンを自ら振り返り、後半では「ドラHOT+」のMCを勇退する峰竜太(73)の37年間を振り返るVTRが流れた。

その中で、峰がかつてビールかけに参加したシーンを見た井上は「僕が峰さんをそういった場面に呼べるようにしたい。シャンパンファイトに峰さんを呼ぶ、という目標ができました」と述べ、「優勝」という言葉こそ口にはしなかったが、頂点に挑む強い覚悟を示した。

東海テレビ「ドラHOT+」に出演し、優勝を誓う井上監督
東海テレビ「ドラHOT+」に出演し、優勝を誓う井上監督

井上にとって“真価”が問われる2年目のシーズンは、球団創設90周年という記念すべき年でもある。
本拠地バンテリンドームには、新たに「ホームランウイング」が設置され、左中間・右中間のフェンス位置が従来よりも6メートル手前になる。フェンスの高さも1.2メートル低くなり、間違いなく本塁打の数は増えるだろう。そうなると、本拠地の広さを生かした伝統的な「守り勝つ野球」から、新たな戦い方にシフトする1年になるかもしれない。

監督初年度で生じた課題をどのように克服し、環境の変化もふまえて、どんなチームを作り上げていくのか、例年以上に注目を集めるだろう。

2025年本拠地最終戦のセレモニーでファンに手を振る井上監督
2025年本拠地最終戦のセレモニーでファンに手を振る井上監督

これまで球界で球団創設90周年を迎えたのは、巨人(2024年)と阪神(2025年)の2チームのみ。くしくも共に節目の年には優勝を飾っている。それだけに、目標はAクラス入りにとどまってほしくない。狙うのは、やはり15年ぶりとなる優勝だ。
(執筆・中日担当 加藤大(東海テレビ))