新潟県小千谷市で、小千谷高校2年生10人が枝を片付けながら地面を掘り起こしていた。目的は山の整備ではない。彼らが探していたのは、150年以上前の戊辰戦争で使われた銃弾だ。金属探知機が反応すると、生徒たちは興奮しながらも慎重に土を掘る。泥の中から現れた小さな塊を手にした瞬間、高校生たちの表情に変化が…教科書では学べない戦争の現実が、この古戦場での学術調査を通じて、若者たちの心に深く刻まれていた。
■激戦地に残された歴史の痕跡
2025年11月15日、小千谷市の朝日山に集まったのは、地域の歴史を学ぶ高校生たちと一般市民だ。作業を指導するのは、小千谷市職員の白井雅明さん(41)。複合施設「ホントカ。」にある小千谷市郷土資料館で、学芸員として地域の歴史を研究する専門家だ。
「ここは戊辰戦争で激戦地になった場所になりますね。木を一生懸命伐採しているエリアなんですけども、この後の調査で出てくることが予想されるのが鉄砲の球なんですよね」
白井さんが示す古い絵図には、1868年の戊辰戦争時の様子が描かれている。新政府軍が一方から攻め、長岡藩の城兵たちが守るために前進してくる。まさにそれがぶつかるエリアが朝日山を中心としたこの地域だった。
■教科書に載っていない地域の歴史
「教科書では戊辰戦争が起こった経緯とかは書かれていたが、小千谷や地方での戦いについては書かれていなかったので、そこを知りたくて参加してみました」
参加した高校生の一人がそう語る。教科書で学ぶ歴史は、往々にして大きな出来事の概要にとどまる。しかし、実際には全国各地で多くの戦いがあり、そこには名もなき人々の命が失われていた。
白井さんはこの地域であった歴史について高校生に説明する。「なんでここに鉄砲の弾があるのかってわかるかっていうと、これちゃんと文献に書いてあるの。会津藩が上で守って、下から薩摩藩、坂の上と下で撃ち合ってるよっていうのが日記に書いてあるの」
■金属探知機が告げる過去の叫び
金属探知機を手に「銃弾でも大砲の弾の破片でもいいので見つけたい」「この山にある銃弾全部掘り出します」などと意気込み高校生たち。
地中に埋まる歴史を求め、探知機を操作すると早速反応があった。白井さんを呼び、掘り進める。
丁寧に土を掘っていくと、泥の中から小さな丸い物体が姿を現した。
■銃弾が語る科学的真実
しかし、銃弾を発見してもすぐには掘り出さない。その理由について白井さんは「先っぽがどっちだよって、こうなんとなく形状から分かると思います。これで、どの方向で出るかっていうのがしっかり分かることによって、薩摩藩の武器っていうのはこういったものを使ってる。長岡藩っていうのはこういう武器を使ってるんだ。その弾の向きによってですね、それぞれの藩の武器の性質、特性をですね、調査することができる」と話す。
銃弾を見つけて喜んでいた高校生たちだったが、ほどなくして表情が変わった。
「今の私たちは見つけてすごいとか、嬉しいって思っちゃうんですけど、当時の人たちにとっては命を奪うものだった」「今後こういうことが起きたらダメなんだろうなっていうのもあり」
■宝探しから平和への思索へ
2時間の調査が終わる頃、一人の生徒が手にした銃弾の重さを実感する。
「すごいずっしりします。今はウクライナとロシアで戦争していて、すごい遠い国の自分とは違うなみたいな感じでどこか思ったんですけど、やっぱり自分でこういうのを見つけると、自分の今いる身近なところにでも戦争していたんだなって思うので、すごいなんか、何て言うんだろう? 考えさせられました」
■複雑な心境、そして受け継ぐ責任
この日の調査では4発の銃弾を見つけることができた。
「楽しい反面こうやって銃撃戦が行われてたので。ちょっと複雑な気持ち」生徒の一人がそう振り返る。
命を守り命を奪いもする銃弾は、150年以上前にこの土地で強い意思を持って撃たれたものだ。それは単なる金属の塊ではない。誰かの親、兄弟、子どもが、何かを守るために、あるいは命令に従って引き金を引いた証だ。
「教科書だと全然こういうのって載ってなくて…」「忘れちゃいけないものというか、伝え続けなきゃいけないものなんだろうなっていうふうに思いますね」
歴史の教科書に載る大きな出来事の陰には、無数の小さな戦いがあり、無数の命が失われていた。この現実を伝え続けなければならない。高校生たちは、この調査を通じてその責任を実感していた。
■血と涙の上にある平和
白井さんは、この調査に込めた思いを語る。
「大事な地域、大事な人、友達、家族、そういった人を守るために戦っていたりするわけですので、今ある平和っていうのは血と涙の上にあるんだよ。これから自分たちがどう生きていくのか、どうやって平和を作っていくのか、そういった実は礎として戦争の遺跡だとか、そういった歴史があるんだよということを学んでもらえればなと思いますね」
身近な土地で発見した銃弾が、未来を作る高校生に平和の大切さを伝えている。