友人の息子が職場でパワハラにあった。
勤務先は児童を預かる施設。いくつかの事業所があり、加害者は事業所の責任者だ。
勤務時間の10分前に仕事をはじめているのに「遅い!たるんでいる!」と大勢のスタッフと子供たちの前で叱責。昼休憩の順番が来たので昼食を買いに行こうとすると「利用児の面倒をみるスタッフが足りないから2人連れて行って」などと同行を余儀なくされる状態が続いたという。
勤務先の責任者からのハラスメント。
事業所の人員は責任者と現場で働く同僚だけ、その上は社長だ。
その社長も…
社員全員が参加のグループラインで、「自分が主催する食事会に参加しないと査定に影響します」と明言。
また、グループラインに「今日のありがとう」を投稿するよう強要し、投稿数が少ないと説教がはじまる。
だからグループラインは「●●さん、荷物を運ぶのを手伝ってくれてありがとうございました」「▲▲さん、携帯の操作を教えてくれてありがとうございました」といったメッセージで溢れかえっているという。
本来、上司のパワハラを相談するべき、さらに上位の相手からのハラスメント。
誰に相談すれば良いのか。
かつてパワハラ被害を経験し、現在はハラスメント撲滅のために様々な活動をしている「日本ハラスメント協会」の村嵜要代表理事に話を聞いた。
■パワハラ相談窓口の設置は義務のはずだが…
【日本ハラスメント協会 村嵜要代表理事】
2022年4月より「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されました。
これにより、従業員がいる事業所は『パワハラ相談窓口の設置』が法律で義務付けられたのです。
しかし、すべての事業所がスムーズに進んでいるわけではありません。
中小企業は「外部相談窓口」を利用している会社も多いのですが、そのことを周知していない会社もあるようです。
「法律で決められたから外部窓口と契約したけど、あまり利用されたくないし、積極的な周知はやめておこう…」ということのようです。
法律で義務化されたものの“罰則がない”ことが、こういった状態の要因のひとつかもしれません。
会社の相談窓口がはっきりしない、相談しづらいといった場合は、信頼できる窓口として労働局があります。
各都道府県の労働局内の『雇用環境・均等室』や、労働基準監督署の『総合労働相談コーナー』は、職場でのハラスメントについて個人が利用できる相談窓口です。
■「ハラスメントかも?」と感じたらやるべきこと
2020年に施行された「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」は、パワハラの防止措置、また職場でのセクハラ、マタハラも「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」で防止措置が義務付けられています。
「ハラスメントかも?」と感じたら、まずは記録をとって下さい。
『いつ』『どこで』『誰に』『どのようなことをされたか』
『第三者で見聞きしている証人はいるか』
出来るだけ具体的に記録していって下さい。
継続的に書くことが重要です。
また、メールやラインは画像を保存し、録音など、証拠を残していって下さい。
■「秘密録音」は違法じゃない!
相談者からよく質問されるのが「秘密録音は違法ではないのですか?」ということです。
ハラスメントの証拠としての「秘密録音」は、裁判でも有力な証拠として使われていますし、違法ではありません。
例えばパワハラ上司から「録音とかしてないだろうな」などと言われたら、怖くなって「録音したらダメなのかな」と思ってしまうかもしれませんが、問題ありません。
仮に、録音していることが相手に分かった場合、「なんで勝手に録音なんてしてるんだ!」などと責めてくる可能性がありますが、むしろそういう風に責めてくることが新たなパワハラの証拠になります。
難しいかもしれませんが、できるだけ冷静に対処して下さい。
そして、「こっそり録音する」ことに後ろめたさを感じる必要はありません。
自分の身を守るための正当な行為です。
(日本ハラスメント協会 村嵜要代表理事)
■困ったときは労働局へ
【徳島労働基準監督署担当者】
ハラスメント等の公の相談窓口は、「各都道府県の労働局の中の『雇用環境・均等室』」または「労働基準監督署(徳島県は県内4か所)の『総合労働相談コーナー(以下、署コーナー)』」があり、いずれも専門知識をもった「総合労働相談員(以下、相談員)」が原則対応します。
●個別労働紛争(紛争解決援助)
労働局の『雇用環境均等室』、『署コーナー』のどちらも対応しています。
相談員がパワハラに関する話を詳しく聞いた上で、どのような対応を取るか相談していきます。
労使間での解決ができない場合、相談者の申し出により、事業主(会社)に対して助言等を行うことがあります。
現状、法的強制力はありませんが、行政機関からの助言ということで、なんらかの改善がされる可能性はあります。
また、助言を行った結果がどうなったか、相談者に対してフィードバックされます。
相談者は「勤務先には言わないで欲しい人」から「裁判で損害賠償請求したい人」までさまざま。
前者には「話を聞いた上でアドバイス」を行い、後者には弁護士会など公的な機関の情報をお伝えします。
●「パワーハラスメント防止措置」
労働施策総合推進法に基づき、労働局の『雇用環境・均等室』でパワハラ防止についての行政指導を行っています。
2022年4月から、中小企業を含むすべての事業主に対して、「職場でのパワハラを防止するための措置」が“義務化”されました。
これは、職場でパワハラが起きた場合、行為者(加害者)に対する適正な措置、被害者に対する配慮措置、再発防止に向けた措置を必ずとらなければいけないということです。
法律が施行されたことで、労働局の『雇用環境・均等室』は、事業主に対し、ヒアリングや書面提出を実施することにより、法に基づくパワハラ対策が適切に行われているか確認し、法違反がある場合は、事業主に対して是正を求める指導ができるようになりました。
(徳島労働基準監督署担当者)
■フィードバックを受けて次へ進む
友人の息子は、契約内容違反や書類の改ざん示唆などもあったため、労働基準監督署に相談。
対応してくれた相談員により、「労働基準法違反」と「パワハラ」が疑われるとの話がなされた。
そして労働基準監督署労基から会社に対し“パワハラ防止に係る指導”をしてくれるよう希望。
相談員は「一度の指導では聞かないかもしれないので、何度か話してみます」と答えてくれたという。
【日本ハラスメント協会 村嵜要代表理事】
労働基準監督署がしっかりフィードバックまでやってくれるというのは、相談者にとって前向きな今後に繋がることだと思います。
「ちゃんと動いてくれるんだ。勇気を出してよかったな」と思える。パワハラはとても苦しい辛い経験ですが、しっかり対応してもらえたことをポジティブにとらえ、経験を活かして次に進んで欲しいと思います。
(日本ハラスメント協会 村嵜要代表理事)