「喪失感。ぽっかり穴があいたような感じです」
声を振り絞るように、広島・福山市に住む会社員の女性(20代)は今の心境を語った。
こつこつと貯めた300万円。「何もなければ返す」――その言葉を信じ、振り込んでしまった。
国際電話を示す「+1」からの着信
被害に遭ったのは11月。
きっかけは、国際電話を示す「+1」から始まる一本の着信だった。

電話口の男は神奈川県警を名乗り、「女性名義の口座が犯罪に使われ、犯人が捕まった」と切り出す。
「あなたは疑われている」
そう告げられ、さらに「身の潔白を証明するには、神奈川県警に来てもらう必要がある」と迫られた。
「自分が何かしたのかな、というのがまず一番。でも身に覚えはなくて、不安の方が大きかった」
仕事があり警察には行けないと伝えると、男たちはビデオ通話に切り替え、警察手帳や捜査書類のようなものを映し出した。そして「このままだと逮捕される」などと不安をあおってきた。
「自分には起きないと思っていた」
「あなたの口座にある紙幣と、犯人が持っている紙幣を照合する必要がある」
そう説明され、現金300万円を振り込むよう求められた。
女性の手元には、犯人とのやり取りを必死に書き留めた手書きのメモが残されている。相手の名前、銀行名、指示された手順…。走り書きの文字から、切迫した状況が伝わってくる。

「何もなければ、その300万円は返します」
その言葉を信じ、女性は指示通りに振り込んでしまった。
「自分にも起こると思っていなかった。大きいお金が動くときは、やっぱり何かある。相談できる人がいればよかった」
15億円以上が捜査機関を名乗る手口
異変を感じ、女性が相談したのは消費生活センターだった。そこで警察への通報を勧められ、初めて詐欺被害に気づいた。
まだ20代の会社員。こつこつと貯めてきた300万円が、たった1日でだまし取られた。
今、警察官など捜査機関を名乗る特殊詐欺の被害が後を絶たず、大きな社会問題になっている。2025年11月末までに広島県内で確認された特殊詐欺の被害額は22億円を超えた。そのうち、捜査機関をかたる手口は15億円以上にのぼる。
今回悪用されたのは、LINEミーティングのSNSによるビデオ通話機能だ。警察は「捜査機関が電話で捜査情報を伝えることはない。捜査でSNSを使うこともない」と注意を呼びかけている。
「自分には起きない」――その思い込みこそが詐欺の被害を生む。
不安を感じたら一人で抱え込まず、家族や消費生活センター、警察に相談することが被害を防ぐ第一歩だ。
(テレビ新広島)
