障がいの有無にかかわらず、誰もが意思を伝え合える社会へ。
2025年、広島県で2つの新しい条例が施行された。制度づくりの舞台裏と、手話の普及を目指すダンスチームの活動を追った。

「手話を奪われた歴史」を越えて

2025年11月1日、広島県で施行されたのは、手話を言語として位置づける条例と、多様な障がい特性に応じた情報コミュニケーション条例だ。

紙屋町シャレオで開催された条例制定記念イベント
紙屋町シャレオで開催された条例制定記念イベント
この記事の画像(7枚)

12月23日、広島市中区で開かれた制定記念イベント。そのオープニングを飾ったのが、県内で活動する手話ダンスチームだった。
全国大会で優勝した「オハイアリ」、そして第1回大会の王者「Sign」。音楽に合わせ、手話で思いを伝えるダンスが会場を包んだ。

条例制定に向けた検討会が始まったのは、2025年3月。関係団体や有識者が集まり、議論は市民にも公開された。

手話で歴史を伝える迫田和昭さん
手話で歴史を伝える迫田和昭さん

戦前の一時期、手話は使用を禁じられていた。
広島県ろうあ連盟の迫田和昭理事長は、検討会でこう語っている。
「私たちろうあ者には、手話を禁止され、権利を奪われた歴史があります。手話言語条例ができることで、手話が“言語”として認められる。その意味はとても大きい」

ダンスなら“手話への壁”を下げられる

検討会の傍聴席には、手話ダンスチーム「Sign」の代表を務める菊田順一さんの姿があった。手話の普及を目的に5年以上活動を続けている。
「前向きに一歩進みそうだと感じました。とてもいい会議だったと思います」

回を重ねるごとに、議論は白熱。
「手話のできる教員がいなければ意味がない」
「当事者にとって本当に実効性のある条文を」
県内の難病団体や要約筆記サークルなど、現場からの声が次々に上がった。

2025年3月から始まった検討会議
2025年3月から始まった検討会議

議論を見守りながら、菊田さんは考えていた。
自分たちにできることは何か。
「手話を広げるためには、障壁を下げることも大事です。楽しく、誰でもかかわれる。その点で手話ダンスは有効だと思っています」

「条例制定」はゴールではない

条例制定が進む一方で、Signは新たな挑戦を始めていた。
被爆80年となる2025年。原爆をテーマにした手話ダンスミュージカルを制作し、手話で被爆の実相を伝える表現に挑んだ。

大阪・関西万国博覧会のステージで手話ダンスを披露
大阪・関西万国博覧会のステージで手話ダンスを披露

さらに9月には、大阪・関西万国博覧会のステージにも立った。
「ここでしっかりぶつけよう。Sign魂を」
そう声をかけ合いながら、国内外の観客に向けて手話ダンスで思いを発信した。
その思いを支えるのが、今回制定された2つの条例だ。9月の県議会で可決、11月に施行された。

【広島県が制定した2つの条例】
広島県手話言語条例
 手話を独自の体系を持つ「言語」と位置づけ、その認識の普及や習得の機会を確保する。
広島県障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する条例
 要約筆記、点字、筆談、音声出力装置など、障害者の特性に応じた意思疎通手段を使って情報コミュニケーションを進める。
(内容は一部を要約しています)

条例を所管する県の地域共生社会推進担当、山縣真紀子部長は言う。
「条例を作ることが目的ではありません。ここが始まりだという意識です。話し合いを重ねながら、ひとつひとつ積み上げていきたい」

手話ダンスのステージと条例制定の現場は同じ方向を向いている。障がい者と健常者の共生社会へ──広島で、その一歩が踏み出された。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。