今年、富山県内のクマの出没件数は1051件と過去10年で最も多くなった。今年の漢字にも選ばれた「クマ」は、富山県民にとって恐怖の象徴となった一年だった。「いままでこんなことがなかったから怖い」と不安の声が県内各地で聞かれた。

この記事の画像(16枚)

夏山から始まったクマとの遭遇

クマの目撃情報が県内で寄せられ始めたのは8月の夏山シーズンからだった。富山市の有峰地区では、登山道のすぐそばにクマが現れ、登山客は「さっきまで顔を出していた」と恐怖を感じた様子だった。また、室堂ターミナルの屋上からは、目視できる近くの斜面にまでクマが近づいてきた。

多くの観光客が訪れる人気スポットでの出没に、関係者は緊張感を強いられた。

10月からは人里へ 市街地での目撃相次ぐ

状況が深刻化したのは10月以降だ。クマの出没は人里にまで拡大し、住民からは「実際(クマを)目の前にするとクマがあんなに速いものかと。すごく怖かった」「(クマのふんが)点々と落ちている。怖い。外に出ることさえも。敷地内を通られたから」と恐怖の声が上がった。

県がまとめたクマ出没マップを見ると、昨年と比較して住宅密集地である市街地での出没が増加していることが明らかだ。

人身被害も発生 クマの異常行動の背景に

出没の増加に伴い、人身被害も発生した。ある女性は「ごみを(ごみステーションの)箱の中に出してふたをしてから襲われた。突き飛ばされた。一瞬何が起こったかわからなかった。すごい力だった」と襲撃の恐怖を語った。

こうした異常な出没の背景には、クマの食料事情があるとみられている。立山町猟友会の栃山正雄会長は「(クマの胃袋に)あまり食べ物が入っていない。完全にエサがない。山に食べ物がないと思う」と指摘する。

エサ不足が原因 ドングリの凶作が引き金に

専門家によると、クマの主食となるブナやミズナラなどのドングリ類が今年は軒並み不作だったことが、クマが人里に下りてくる主な原因だという。

森林総合研究所東北支所の大西尚樹チーム長は「秋のエサは基本的にはドングリ。おととしと今年は凶作にあたる年で、山の中にエサがない。クマがエサを求めて動き回っている。つまり市街地に出てくるという状況」と説明する。

緊急対策「緊急銃猟制度」が初始動

こうした事態を受けて、政府も対策を強化した。今年から自治体の判断で発砲が可能になる「緊急銃猟制度」が導入され、10月には県内で初めて緊急銃猟によってクマが駆除された。

この3カ月間で緊急銃猟は県内で合わせて9回許可され、そのうち5件でクマが駆除された。今年度の県内クマ捕獲数は過去最多の355頭に達した。

浮き彫りになったハンター不足の深刻さ

しかし、連日のクマ出没に対応するハンターからは悲鳴も上がっている。立山町猟友会のハンターは「昔50人いた。この村だけで」と述べ、「足りない。2人だもの」とハンター不足の現状を嘆いた。

こうした状況を受けて、狩猟免許を持つ自治体職員、いわゆる「公務員ハンター」が注目されている。上市町の公務員ハンター、木原剛さんは「自分たちは役場内で着替えて(銃を)持ってすぐ現地に着けるのがメリット」と、迅速な対応が可能な利点を語った。

専門家警告「再来年また大量出没の可能性」

来シーズン以降もクマは人里に出没し続けるのだろうか。森林総合研究所東北支所の大西チーム長は「再来年また大量出没が起きるだろう。来年は出没が少ない年だと思う。少ないから大丈夫だということではなくて、再来年に向けて、とにかく来年は急ピッチで整備して、制度を作り、それを全国に展開してもらいたい」と警告する。

大西チーム長によると、ドングリ類の凶作は約2年周期で訪れるため、再来年以降に再び大量出没が起きる可能性があるという。

人とクマの「すみ分け」こそが根本的解決策

大西チーム長は根本的な対策として、人とクマの「すみ分け」を徹底すべきだと訴える。「とにかく人里に近い、標高が低いエリア(のクマ)をゼロにする。クマは警戒心が強くて、開けたところは好きではないので、見晴らしのいいエリアを作るだけでも、だいぶクマの出没は抑制できる」と説明した。

今年は暖冬の影響もあってか、12月に入ってもクマの目撃情報が寄せられており、引き続き注意が必要な状況が続いている。

来年に向けて対策を強化し、人とクマが共存できる環境作りが急務となっている。

(富山テレビ放送)

富山テレビ
富山テレビ

富山の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。