2025年に全国で相次いだクマの出没。新潟県も例外ではない。クマの出没件数は12月23日時点で3443件と過去最多を更新し、人身被害は16件に上った。実際にクマに襲われた猟友会の男性を取材すると、まさに命がけで対応している現状とクマ対策の難しさが浮き彫りとなった。
“クマ被害”相次いだ2025年
今年の漢字にも選ばれた『熊』が猛威を振るった2025年。新潟県内でも各地で目撃情報が相次いだ。
11月12日には小千谷市の誇る伝統的な地場産業であるニシキゴイがクマに捕食され、被害に遭った養鯉池の周りにはニシキゴイのうろこなどの残骸が…。
相次いだのは、目撃情報だけではない。
10月27日、上越市でクマに襲われた男性は「こっちを見た途端いきなり走って襲ってきたので、だいぶ恐ろしかった」と証言。
11月9日に新発田市でクマに襲われた男性は「自分で転んだが、その上にクマがバサッと…」と当時の恐怖を語るように25年、クマによる人身被害件数は16件に上った。
こうした中、関川村では集落から数百m離れた河川敷で草木を重機を使って踏み倒していく作業が行われるなどクマが人の生活圏に近づくのを防ぐための対策が急ピッチで進められていた。
自治体判断で発砲可能な“緊急銃猟”
そして、25年9月から運用が始まったのが、市街地でクマが出没した際に自治体の判断で発砲が可能となる“緊急銃猟”だ。
10月には阿賀野市にある建設会社の倉庫に居座ったクマに対して実施されるなど、これまでに県内で行われた緊急銃猟は10件以上に上っている。
緊急銃猟は自治体からの要請を受けて猟友会が行うが、クマの個体数が増える一方で、猟友会のメンバーは減少しているのが現状だ。
クマに襲われながらも緊急銃猟を実施したハンター
「減っているなんてもんじゃない。消滅するわ。絶滅危惧種だ」
こう語気を強めて話すのは、新発田市加治川地区で20歳のときから60年にわたりハンターを続ける奥村勉さんだ。
実は奥村さん、11月12日に新発田市二本木の農道でクマに襲われながらも緊急銃猟を実施した人物。当時の状況も細かに話してくれた。
新発田市押廻に現れたクマは、竹藪に逃げ込んだのち、二本木の農道へ逃げたという。
奥村さんはその農道に逃げたクマを追い、車から降りて猟銃の準備をしていたところ、畔の下から飛び出してきたクマに襲われた。

その後、市役所の車に突進されたクマが走って逃げようとしたため、奥村さんは顔や足にケガを負いながらも猟銃を構え、50mほど離れたクマに狙いを定めて発砲。
1発目は外れたものの、2発目はクマに命中。クマは弱り、這っていたところをもう一発撃って仕留めたという。
「地域の皆さんの安全のために駆除した。それだけじゃないですか」
担い手不足が深刻化…政府も“ガバメントハンター”の育成進める
自分以外にケガ人が出なくてよかったと話す奥村さんだが、「俺らハンターは命がけのボランティア。本当に命がけのボランティア。クマでもイノシシでも」と話す。
その命がけのボランティアに従事する加治川地区猟友会のメンバーは、現在わずか6人。
人の生活圏で相次ぐクマの出没により、その存在の重要性が増す猟友会だが、その担い手不足は深刻化している。
「ガバメントハンターをはじめ、専門人材や捕獲従事者の育成を進めるとともに国が主導してクマの個体数を推定し、増えすぎた地域の個体数を削減する取り組みを進めていく」
11月14日に石原環境相がこう話すように、政府も狩猟免許を有する自治体職員、いわゆる“ガバメントハンター”の育成など捕獲従事者の担い手確保を対策の重点項目に挙げている。
「狩猟免許の有効期限は3年」担い手の育成に難しさも
ただ、奥村さんはその難しさを語る。
「狩猟免許は取得しても有効期限が3年。3年でまた更新しなければならないから、その間に楽しい思い、おもしろい思いをしないとやめるのでは」
猟友会メンバーの高齢化も進む中、いずれは担い手がいなくなるのではないか…
過疎高齢化が進み、不要な果樹の放置などクマが人の生活圏に近づく要因も増える中、その対策の難しさが浮彫となっている。
