高市早苗首相が台湾有事に関し存立危機事態に「なり得る」とした国会答弁をめぐり、野党側の批判がおさまらない。

答弁にあたり内閣官房が事前に作成した資料では「台湾有事という仮定の質問にはお答えすることは差し控える」と明記されていたことも判明。

16日の参院予算委員会でも立憲民主党議員から追及を受けた高市首相
16日の参院予算委員会でも立憲民主党議員から追及を受けた高市首相
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16日の参院予算委員会でも立憲民主党の議員が「答弁資料になかった答弁を高市総理がしたということだ。個人的見解を述べたのではないか」「撤回すべきではないか」などと約40分間にわたって追及した。

臨時国会は17日に会期末を迎えたが、野党側の一部は「答弁によって日中関係の悪化をもたらした」と厳しく批判している。

「中国の意図を見抜き冷静な議論を」自民幹部が発信

こうした中、政権を支える自民党の執行部が「冷静な議論」を呼びかけ、SNSやテレビ番組での積極的な発信を行っている。

有村治子総務会長のXより(12月13日投稿)
有村治子総務会長のXより(12月13日投稿)

自民党幹部の1人、有村治子総務会長はSNSで「中国が各国に仕掛けている『世論戦・認知(印象)戦』について事実無根のプロパガンダや印象操作には冷静かつ毅然と事実を以って反論することが重要だ」と投稿した。

自身が出演したテレビ番組での発言内容を抜粋したものだが、番組内では高市首相の“台湾有事”発言について「あの発言が原因で日中関係が崩れたというのは、まさに中国の主張だ。認知戦に負けてはならない」とも述べている。

有村治子総務会長
有村治子総務会長

その上で「中国は(薛剣駐大阪総領事の)『汚い首を躊躇なく切ってやる』とした発言の争点化を避けたい。そしてあたかも“高市発言”が問題であるかのようにして世論を分断させたい。結論としては台湾を武力で併呑するということも否定していない中で、台湾の緊張が高まった時に米国も日本もあのエリアに近づいてほしくない。その目標のために『何を使えるか』と考えているという中国の意図を見抜かないといけない」と解説。

「あの答弁が原因で日中関係が崩れたということ自体が中国のナラティブ(意図的に作成された物語)に乗っていることに気づいていただきたいし、それをもっと丁寧に言っていかないといけない」と強調し、引き続き発信に努めていく考えを示した。

特に有村氏がSNSやテレビ番組を通じて発信しているのは、中国に関する情報に対しての「事実に基づく冷静な議論」の必要性だ。

自ら警察庁に問い合わせ…SNSにデータ掲載も

実際、中国外務省が治安の悪化を理由に日本への訪問の自粛を自国民に呼びかけた際には、有村氏自らが警察庁に問い合わせ、在日中国人が凶悪犯罪に巻き込まれ被害者になった件数を確認。

例年に比べ2025年が増えているわけではないことを確認し、その詳細を記者会見で公表した。SNS上にもデータを掲載し、「中国政府の指摘は当たらない」と反論した。
こうした中国の“情報戦”に対する危機感は自民党内で広く共有されている。

小林鷹之政務調査会長
小林鷹之政務調査会長

同じく自民党幹部の小林鷹之政務調査会長も「間違った発信には徹底的に対抗することが必要だ」と述べている。

小林氏はまた、中国軍機による自衛隊機へのレーダー照射の事案があった際には、自民党で会議を開催し「断じて容認できない」と主張。

記者会見でも「政府と連携しながら自民党も中国に対してのみならず国際社会に対しても積極的に情報発信や働きかけを行っていく必要があると考えている」と強調した。

さらに「我が国としてこちらの方から日中関係の緊張を高めていくような行為というものをするつもりは一切ない。対話というものはオープンに行っていく姿勢は堅持していきたい」として、冷静に対応する考えも明らかにしている。

こうした内容は自民党広報がテキスト化し、全文をSNS上にアップし周知を図っている。

「言う必要なかった」「抑止力高めた」自民党内で賛否

高市首相の国会答弁から1カ月以上が経過したが、悪化する日中関係を受け、今も自民党内では賛否両論が渦巻いている。

歴代政権とは違う表現で“踏み込んだ”ことについて「あそこまで言う必要はなかった」(自民ベテラン議員)、「首相の判断ミス」(自民中堅議員)といった意見が根強い。

その一方で、党内には「抑止力を高めた」(自民・外相経験者)と評価する声がある。

米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)が2023年に公表したシミュレーションによると、中国が台湾に対し制圧を試みた場合、24通りのシミュレーションのうち制圧に成功したケースはわずか2通りにとどまった。

1つ目のケースは米軍が介入せず台湾が単独で戦うケース。
もう1つのケースは米国が介入したものの日本が介入せずに「中立」を保つケースだった。

このため、“高市答弁”を「抑止力を高めた」と評価した議員の1人は「中国からすれば日本の介入を避けることができれば台湾を制圧できることになる。これまで日本が対応を曖昧にしてきた中、存立危機事態に『なり得る』という“意思”を示したことで、中国を思いとどまらせる効果がある」と説明する。

FNNの世論調査(11月末実施)
FNNの世論調査(11月末実施)

FNNの世論調査(11月末実施)では、高市首相の“台湾有事答弁”に対し「適切だ」(22.6%)、「どちらかと言えば適切だ」(38.4%)と答えた人を合わせると6割にのぼり、答弁のあとも内閣支持率は7割を超える高水準を保っている。

こうした背景もあってか、自民党内で“高市答弁”を表立って批判する動きはない。

党幹部の1人は、こう強調した。
「政権与党が一枚岩で中国に毅然と対応しなければ、それこそ中国の思うツボだ」。

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政治部
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