クマによる被害が全国で相次いでいる。東海地方でもクマの目撃情報が急増する一方で、駆除にあたるハンターは減り続けている。過疎化や高齢化が進む中、解決の糸口を見つけようと、新たな試みも行われている。

■これまでいなかった場所に…「クマ」出現に驚き

普段は人が通らない、急な山道を登っていく男性。

岐阜県郡上市で林業を営む興膳健太(こうぜん・けんた)さん、43歳。彼のもう1つの仕事は、野生動物を狩る猟師だ。

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一目見ただけでは分からないが、地面には罠が仕掛けられている。

興膳健太さん:
「ちょっとテストしてみましょうか。こうやって捕獲されると、ここにくくられているんで、逃げれないという仕組みですね」

この日は2年前に植えたカエデやコナラの苗木の様子を見に来ていた。苗木を狙う野生動物の侵入を防ごうと、周囲をネットで囲み、罠も仕掛けている。

さらに野生動物を感知して、自動で撮影する「トレイルカメラ」を設置していて、どんな生き物が、どんなルートでやってくるかが分かるという。

現場で映像を見せてもらうと、タヌキやカモシカの姿が映っている。

事務所に戻り、さらに映像を確認していくと、突然、画面に黒い大きな生き物が映し出された。

正体は「クマ」。この場所でクマと出会うのは、初めてだという。

興膳さん:
「あそこに来たということです。僕らが登った場所に。あの場でこれ見てたら、めっちゃビビっていたかも」

■「緊急銃猟」スタートも ハンターは“高齢化”

全国でクマによる被害が相次いでいる。2025年度、クマに襲われて死亡した人は13人(11月14日時点)と、過去最悪のペースとなっている。

そんな中、2025年9月から新たに「緊急銃猟」が始まった。

「緊急銃猟」により、市街地にクマが出没した際、市町村の判断で銃の使用ができるようになった。一方で、実際に発砲するには、事前に住民を避難させ、交通規制を行うなど、安全を確保するための厳しい条件がつけられている。

岐阜県中津川市では今年9月、下校中の高校生がクマに襲われケガをした。

現場は、横を線路が通り、近くに住宅もある市街地。地元の猟友会に所属する古井忠義さん(77)に、ここで「緊急銃猟」を行うという想定で、話を聞いた。

恵北猟友会 古井忠義さん:
「原則からいったら公道から撃っちゃダメ。ルールとしては。鉄砲はそんなもの。それで家に向けちゃいかんというルールがある。(住宅地の方向は)もう撃てんね。ダメだ。地面に向かって撃てばいいとかいうんだけど、地面向けて撃っても跳ね返る。跳弾がある」

「緊急銃猟」が始まっても、発砲するには多くの制約がある。そして、リスクを判断して、引き金を引くのはハンターだ。

古井さん:
「市長がいくら命令したって、撃つのは自分だから、自分がよっぽど考えて、撃ったと。『市長が撃てと言ったから撃った』と言っても、撃った条件が悪ければいかんと」

ハンターたちが今、注目している裁判がある。

北海道砂川市で2018年、ヒグマ駆除の要請を受けた猟友会の男性(75)が、市の職員や警察官らの立ち会いのもとライフルを発砲した。しかし、後になって、建物に向けて発砲したとの理由で銃の所持許可が取り消された。男性は処分の取り消しを求め上告し、最高裁で審理されている。

古井さん:
「撃った方はボランティアで撃ったのに、免許取り消し食らって可哀想な話。『その二の舞になっちゃいかんよ』って話はしている。『よくやった』と言ってくれることが1回もないわ。俺らは仕事じゃないで、趣味だで、いやだといえば済むことだけど。危ない話だし、命を落としたら、いくらの補償をしてくれるのと」

猟友会は、あくまで「ボランティア」。それでも彼らが活動を続ける理由がある。

古井さん:
「これは田んぼ。田んぼの稲が立ってたけど、もう何ともならん。こうなっちゃうと」

まだ稲に穂がついているが、踏み倒されて、収穫はできない。

古井さん:
「イノシシさんがくしゃくしゃにしてくれたのよ。こういうことしちゃうでイノシシさんはよ。去年はシカに全部ここ食べられて、今年はイノシシ」

山あいの過疎が進む地域で、シカやイノシシを駆除する猟友会は頼りになる存在だが、ハンターの数は減る一方だ。

古井さんが所属する恵北猟友会には26人の会員がいるが、猟の解禁前に開かれた研修会に参加するメンバーの多くは高齢者だ。

古井さん:
「若い人は30歳。70以上は10人。3分の1くらい。平均すると60歳以上になるね」

深刻なハンターの高齢化。古井さんは、あと10年で半分ほどに減るのではと危惧している。

■猟師の魅力を発信…里山再生の“チャンス”に

郡上市で猟師として活動する興膳さんは、若い世代に猟の魅力を知ってもらおうと、様々なイベントを企画している。

その一つが、野生動物を感知して自動で撮影するトレイルカメラを使って、わな猟を疑似体験する「クラウドハンター」だ。

参加者は地元の猟師と一緒に、罠とカメラを設置し、自宅に戻ってからも映像を監視し、獲物がかかるのを待つ。

これまでに10回ほど開催され、東京など都市部に住む人も参加しているという。

興膳さん:
「いろんな道具を使ったりすると、狩猟がより楽しく、魅力的に。都会の方たちでも親しみやすくなって。それをきっかけにもっとやりたいという人が増えてくれればいいなということで」

さらに狩猟に興味があるという地元の高校生2人が、インターンシップにやってきた。

高校生:
「シカについて知ってみたかったり、捌いたり、どうやって森でシカを仕留めたり。狩ったりするのかなっていう興味があったので」

別の高校生:
「僕はシカをさばくというのは知っていたので、それだけで興味があって(Q猟師に興味が?)そうです」

3日間のインターン初日、2人は地元のベテラン猟師の元を訪れ、捕獲されたシカの肉をさばく体験をした。「動物の命をいただく」ということを、技だけでなく、心についても学んでいく。

人と野生動物が共存する里山を未来にどうつなぐのか。

興膳さんは2年前に植えたコナラの木が、将来どんぐりの実をつけて、野生動物が山の中で暮らせる環境を作りたいという。

興膳さん:
「鳥獣害をきっかけに、若い人たちが農村に来て定着する、ある種チャンスだと思っている。林業なども合わせてやってもらって、本来の共存できる人間のバランスと野生動物のバランスがいい具合に戻ってくるといいな。そこを目指してやっていきたい」

東海テレビ
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