岡山県立高校で野球部のマネージャーだった男子生徒が顧問の教師から叱責を受け自殺した問題。生徒の死から13年がたった2025年、ようやく教育委員会による再発防止策がまとまりました。
全国でも数少ない「不適切な指導」の具体例を示す動画が完成し一定の評価がある一方、その内容に遺族は強い憤りを示しています。
◆野球が大好きで真面目な性格だった息子へ…13年越しの「報告」
13年越しとなった息子への報告は決して晴れやかなものではありませんでした。
【2025年1月】
〇自宅の仏壇で手を合わせる男子生徒の父親
(男子生徒の父親)
「(完成したことについて)とてもハッピーな感情では伝えられなかった。やっとここまできたよということくらい」
野球が大好きで真面目な性格だった息子。
(男子生徒の父親)
「亡くなった日、このかばんをここに置いて、家族の誰とも会うことなく出かけていった。その当時のまま、13年前のままここにある」
安心して子供を送り出すことができる学校環境。遺族はただそれだけを求めて、声をあげ続けてきました。
(男子生徒の父親)
「(資料の)色が入った部分が不足していた。われわれと教育委員会の認識の違いかなと。遺族が声をあげ続けないと効果的な再発防止策に結び付かない。特に指導死事案の場合は本当に前に進まないんだと思った」
◆男子生徒の死から6年後に「調査」開始→さらに3年後に「指導死」と判明
2012年7月、岡山市の県立岡山操山高校で野球部のマネージャーをしていた2年生の男子生徒は、部活動から帰宅後に自ら命を絶ちました。
当初、自殺の原因は学校から明らかにされず、遺族からの強い要望を受け第三者委員会による調査が始まったのは男子生徒の死から6年後。そして「顧問の教師の激しい叱責が原因」との調査結果が報告され、いわゆる「指導死」だったことが明らかになったのはさらに3年後でした。
(2021年 岡山県教委の謝罪)
「誠に申し訳ございませんでした」
これを受け、県教委は遺族に謝罪、監督だった教師を停職3カ月の懲戒処分とし、外部の有識者や遺族を交え再発防止策の策定に取りかかりました。
(2022年・男子生徒の父親)
「不適切な教師の指導で亡くなったということを、県教委がようやく理解してくれた」
◆「指導死」事案に携わる教育心理カウンセラー・松島葉子さんは「県教委の当事者意識が希薄」
それから、さらに4年…。
2025年1月にようやく最終版が公表された再発防止策。「指導死」事案に携わる教育心理カウンセラーの松島葉子さんは県教委の当事者意識が希薄だと指摘します。
(子どもアドボカシーActfor 松島葉子代表)
「痛ましい指導死事案が教育委員会の管理監督不足のもとで起きたという当事者意識や、遺族の心に寄り添うという意識が希薄だったのではと思わざるを得ない」
◆初動対応や自殺の原因調査などが不十分だったと認めた県教委 「再発防止策」ようやく完成
県教委の中村正芳教育長は2月の県議会で、県教委の初動対応や自殺の原因調査などが不十分であったと認めました。
(岡山県教育委員会 中村正芳教育長)
「再発防止策の策定にあたって意見をもらう外部有識者について関係団体からの推薦や選定に時間を要したことなどからこの度の公表になった。今後は二度と同じような事案を起こさないよう、県教委としてしっかりと対応していきたい」
出来上がった再発防止策は大きく6つの柱で構成されています。
体罰を防ぐハンドブックの改訂、児童生徒の自殺防止対策と起きた場合の初期対応などを示した基本方針の策定、懲戒処分の指針をより厳しく見直すことなどが盛り込まれています。
◆動画で明かされていない“指導死事案”に松島さん「再発防止の意識が希薄なのでは」
(篠原聖記者)
「中でも遺族が強く要望していたのがこの教育動画の制作です。県内で実際にあった「不適切な指導」が再現されています」
制作された動画は全部で14種類。岡山県教委のホームページから誰でも見ることができ、これまでに全ての県立学校で、生徒や教職員が視聴しているということです。
松島さんは全国でも数少ない具体例を示した動画が出来上がったことを評価する一方、内容は不十分だと話します。
(子どもアドボカシーActfor 松島葉子代表)
「指導死事案であったということを動画の中で明かしていない。動画の最後に、生徒がこの日を境に学校に姿を見せなくなったというナレーションが入って、生徒が自転車で帰宅している背中の姿だけが映るのですが、その生徒が亡くなってしまった、死亡事案かそうでないということでは、見ている生徒の受け止めも違ってくる。事実を教えていないというところが、再発防止の意識が希薄なのではないか」
◆自殺から13年 「教育動画」完成も生徒の父親は「早急に更新を」
遺族も、動画が完成した際に県教委に寄せたコメントで同様のことを指摘していました。
県教委は2026年8月までに再発防止策の検証結果をまとめることにしていて、必要に応じて動画の再編集を検討するということですが、遺族の意向が反映されるかは不透明です。
(男子生徒の父親)
「早急に更新することをやってもらいたい。こういうパワハラ的指導を受けていた人がそれを良しとする考えで社会に出て、パワハラを働くという負の連鎖があると思う。そういうことが少しでも正常化するような方向に役立ってほしい」
男子生徒の自殺から13年、ようやく動き出した再発防止策。今、その実効性が問われています。