12月9日に法務省が示した、危険運転致死傷罪における適用要件の数値基準の試案。
現在、危険運転致死傷罪が適用されるのは、「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」などとされていて「規定があいまいだ」という批判の声がありました。

試案では、飲酒については呼気1Lあたりのアルコール濃度が0.5㎎以上。速度については、最高速度が60㎞を超える道路ではその速度から「60㎞超過」をした場合。最高速度が60㎞以下の道路では「50㎞超過」をした場合が「危険運転致死傷罪」の適用範囲となります。
法務省としては、一定の数値によって明確化することで司法判断のばらつきを解消するのが狙いです。
この試案について、どう感じるのか…『サン!シャイン』は交通事故被害者の遺族に話を聞きました。
事故被害者遺族「少しでも改善されれば…」
12月11日、『サン!シャイン』が話を聞いたのは、都内に住む波多野暁生さん(48)。
2020年3月14日、横断歩道を渡っていた当時11歳の娘・耀子さんが、信号を無視した車にはねられて亡くなり、一緒にいた波多野さんも重傷を負いました。

波多野暁生さん:
私の方はすぐに手術をしなくちゃいけなかったので、麻酔をして2日後くらいに目覚めて、そこで初めて娘が亡くなったことを聞いて…。
通夜・葬儀もあって通夜はドクターストップで出られなくて、葬儀はなんとか車椅子で出た。
事故から1週間後に行われた耀子さんの葬儀には、事故による傷が残る中、車椅子に乗って参列しました。
運転手に対し、当初から罪の重い「危険運転致死傷罪」での起訴を望んでいた波多野さん。しかし…。

波多野暁生さん:
危険運転(致死傷罪)にならなかった時の落胆が大きいということは、警察の方はいろんな事案を見て知っているので、あまりそこにこだわらない方がいいと言われました。最終的に警察が検察に送検する時は、過失(運転致死傷罪)で送検してますので、全く納得できないという気持ち。
事故発生時、運転手は「過失運転致傷」の容疑で現行犯逮捕されました。
当初、法的検討を行わなかった弁護士に不信感を抱いた波多野さんは、担当弁護士を変更。その弁護士が、検察側と何度もやりとりした結果、事故から約1年後にようやく「危険運転致死傷罪」での起訴に至りました。

波多野暁生さん:
加害者は「赤信号を見た」っていうふうに供述してるんですよね。実況見分でも「(赤信号を)見た」と言ってる。それでも1年もかけないと起訴できないっていう、そこに非常におかしさを感じた。
そして2022年3月、被告の運転手に「危険運転致死傷罪」による懲役6年6カ月の判決が下されました。
裁判を通して、危険運転致死傷罪の基準の曖昧さを感じたという波多野さん。数値基準が盛り込まれた試案について、被害者遺族として、どう感じたのでしょうか?

波多野暁生さん:
数値の在り方については議論の余地はあるんじゃないかとは思いますけれども、数値基準が入るということ自体がおそらく刑罰法においては画期的なことだと思うので、そこは非常に大きな一歩だったのではないかなと思います。
今までみたいに長い時間、危険か過失かと結論が出ないまま、ずっと過ごさざるを得ない被害者とか遺族の方が、そういう時間が減るとか、あるいは署名活動とかをして体張って訴えないとなかなか動かないという状況が、少しでも改善されればいいのかなと思います。
曖昧だった「危険運転」数値基準
――危険運転致死傷罪が見直される背景にはどんなことがあるのでしょうか?
交通事故に関する裁判に詳しい 大達 一賢弁護士:
過去に危険運転とおぼしき事案であって、元々の法律の条文が少し曖昧に捉えられるところがあった影響で、結果として危険運転での起訴に至るまでとか公判が始まるまでに長い時間がかかってしまったなどの事情があって、被害者救済の観点からはこのままではいけないという意識があったのではないのかなと思っています。

中室牧子氏:
例えばスマホを見ながら運転していた場合など、数値化されない危険行為の評価っていうのはどうするのかということだったりとか、私はアメリカに住んでいたことがあるんですけど、アメリカは数値で厳格に基準化されているものの、数値以下なら安全だっていうような誤解をする人たちもいまして、何杯までだったら飲んでも捕まらないとかそういうような話も出ていましたので、数値以下なら安全だっていう誤解を生まないようにするというのは重要なことではないかなと思います。
大達 一賢弁護士:
今回の改正っていうのはあくまで従来の条文に加えて、基準値が設けられるという話なので、じゃあ基準値を下回ったからといって許されるっていうようなものではないといったところが、告知が必要なところかなと。
佐々木恭子キャスター:
あくまでもそこは数値基準を下回っていても総合的に判断されるということは変わらないということですね。

スペシャルキャスター カズレーザー氏:
今までの裁判所の判例とか判断で120kmとか余裕で超えているのに制御が困難とは言えないってものがあったような気がするんですけど、あれはどういうことですか?
大達 一賢弁護士:
“高速度で運転していたにもかかわらず危険運転で判断されなかった”という今までの事案に関しては、あくまで物理的に自動車が制御困難であるということに対する運転者の認識まで求められていたことから、スピードがすごく超しているからといって直ちにその認識があるわけではないだろうという判断のもとに、結果として危険運転致死傷罪の認定が下りなかったというようなことがあると思います。
谷原章介キャスター:
それってドライバーの主観の話であって、道路の状況、車の性能、なおかつ制動距離とかでとてもパッと人が飛び出した時に制動できて止まれるような状況ではなかったというのを客観的に判断するものではないんですね。
大達 一賢弁護士:
そうですね。客観的な事情を勘案して本人の主観がどうだったのかということを推定するというのが、この危険運転致死傷罪における判断類型というのを考えていただいた方がいいかなと思います。
(「サン!シャイン」12月12日放送より)
