熊本西環状道路は国道3号線の渋滞緩和に一定の効果を出しています。しかし専門家は「渋滞はもっと緩和しないといけない」と言っています。そのためには「道路を走る車をどれだけ減らせるか」そして「公共交通にどれだけシフトできるか」だとされています。ただ、その公共交通の現場は大きな問題を抱えています。

【11月18日・尾谷いずみ】「宇城市松橋町の九州産交バス松橋営業所。こちらは今年9月に廃止されました。現在は更地にするための工事が行われています」

九州産交バスは今年9月松橋営業所を廃止し、10月に松橋・宇土エリアから熊本市内までの直通路線も廃止するという再編を行いました。

【九州産交バス営業部 岩永謙二部長】「運転士不足の問題が一番と思っている。やむを得ず再編に至った」

県内全域に路線を持つ九州産交グループの運転士は現在561人。コロナ禍前から人手不足は続いていますがそれでも2019年には運転士708人が在籍していました。グループ全体で減便など効率化を進めてきたものの現在も必要な定員にはおよそ20人不足していて、休日出勤でカバーしているといいます。

【九州産交バス運行部 中村博文部長】
Q実際足りていない状態?「足りていない。今いる運転士に負担がかかっている」

こうした状況はどの事業者も同じで、県内のバス5社では現在合わせて50人の運転士が不足しています。

【熊本学園大学経済学部工学博士・溝上章志教授】「バスという公共交通はエッセンシャル(社会機能維持に不可欠)なものでありそれを支えている運転士はエッセンシャルワーカーと考えられる。もっと魅力ある職業としてキャリアを積める良い環境を作り運転士を増やさない限り今以上のサービスを提供することはできない」

こうした中九州産交バスが今年行った路線再編は、これまでにない大きな決断を要したといいます。

【九州産交バス営業部 岩永謙二部長】「明確に『JRに任せる』というメッセージを出したのが今回は一番大きかったと思う。完全に途中(のバス路線)を遮断したのは初めて」

九州産交グループは自社の営業所を廃止してエリアの拠点を他社の『JR松橋駅』に移し熊本市内への客の輸送は『JR九州』に任せ、バスは『駅との結節』の役割に徹することを選択。

10月からはJR松橋駅に平日およそ50便を乗り入れ、公共交通のネットワーク強化へ舵を切りました。窓口機能については廃止した営業所近くに『松橋販売所』を設置し、サービスを続けています。

【九州産交バス岩永謙二 営業部長】「役割分担を時代の流れとともにやってかないと交通事業者も残っていけないし、力に応じた役割分担を図れば、結果的に利用者に迷惑をかけないことになると思っている」

【熊本学園大学経済学部工学博士 溝上章志教授】「得意な分野を持つ他社に任せて(バスは)それを補完していく仕組みに替えていく。ここでは鉄道を幹線にしてバスで(利用者を)集めてきて乗り換えて(熊本市へ)行ってもらうことをやっている。こういうところはこれから増えていくのではないか」

こちらは先月、八代市の自動車学校で開かれた県内のバス5社による就職説明会。運転士不足解消に向けた各社合同の取り組みです。この場で九州産交グループがアピールしたのは『入社後最大10年間の家賃補助』『学生時代の奨学金返済を最大10年肩代わり』『通勤用車両を2年間無償貸与』など数々の支援制度。すべてを利用した場合最大930万円の支援になるとしています。

こうした制度によって九州産交では今年度これまでにおよそ30人の運転士獲得につながりました。今年7月に入社した奥村睦さんは他県での運転経験があります。

【運転士・奥村睦さん】「福利厚生が豊富で大変魅力に感じたのと(九州産交は)路線バス、高速バス、貸し切りバスといろんな業務をしていて家族と一緒に過ごすなら長く腰をすえて働けると思ったのでこちらの会社にしました」

進む高齢化社会、「移動の担い手として貢献したい」と語る奥村さん。バスが地域の移動手段としてあり続けるために・・。厳しい経営状況の中、現場は独自の取り組みを模索しています。

テレビ熊本
テレビ熊本

熊本の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。