福島県飯舘村の山津見神社で、東日本大震災前と同じ規模での例大祭が15年ぶりに復活した。多くの人が楽しみにしていたのが、震災で途絶えていた「虎捕太鼓(とらとりだいこ)」の演奏だ。福島大学の学生たちが受け継いだバトンは、訪れた人々に懐かしさと力強さを届けた。
二重三重の苦難を乗り越えて
山津見神社は全国でも珍しい「オオカミ信仰」で知られる。2011年の東日本大震災と原発事故により全村避難を余儀なくされた飯舘村。さらに2013年には神社が火災で焼失するという二重三重の打撃を受けた。
再建を果たした神社では2017年から規模を縮小した例大祭が行われてきたが、今年は名物の茅葺き屋根の茶屋も復活し、3日間の祭りが催された。
雪が舞う中、飯舘村在住の女性は「昔も雪が降ってたしね、それを思い出した。珍しく雪が降ってくれて、雪も楽しみにしてたのかな」と懐かしむ。
山津見神社例大祭実行委員長の阿部猛さんは「ここに戻ってきてよかった。住民がばらばらになっているけど、こういう時だけでも構わないから、戻ってきてもらえれば」と話した。
大学生が受け継いだ「虎捕太鼓」
例大祭2日目、最大の見どころとなったのが、福島大学の学生たちによる「虎捕太鼓」の演奏だ。この太鼓は1998年に誕生し、震災前まで例大祭を彩ってきたが、震災と原発事故によってメンバーが離れ離れになり、演奏できない状態が続いていた。
福島大学の学生たちは「飯舘村を元気づけたい」と2024年9月から活動を開始。今年の夏に見つかった楽譜とわずかに残っていた過去の映像を頼りに、手探りで練習を重ねてきた。
福島大学大学院1年の寺田雄喜さんは「音楽経験者が少ないということから難儀したこともあった。みんなで復興に少しでも貢献したい気持ちがあったので、そこで一つになれてここまで形にすることができた」と振り返る。
大阪出身の寺田さんは「普通の太鼓と違って、地域住民の方々の心の復興という一役を担っている太鼓。すごく重く受け止めて叩いています」と語った。
懐かしさと力強さを届ける音色
力強い掛け声とともに鳴り響く太鼓の音は、訪れた人々の心に深く届いた。飯舘村在住の女性は「感激しました。昔もたくさん人がいてすごく賑やかだったですね、なんか懐かしかったです」と目を細める。
伊達市から訪れた男性は「斬新な感じで、若い人たちなので力強い感じが感じられました。力強く頑張って復興の方もしていっていただければ」と期待を寄せた。
リーダー的存在の福島大学3年・深谷春奈さんは「まずは力強い音、リズムを届けたいなと思っている。私たちの演奏で活気づいてくれればいいなというか、元気になってもらいたい」と語る。演奏後には「今までの中で一番力強い演奏ができた。村の方や村外から来てくださってる方のうれしそうな顔を見たい」と笑顔で振り返った。
15年の時を経て、再び山津見神社に響き渡った虎捕太鼓の音色。大学生たちの情熱と地域の人々の思いが重なり合い、新たな一歩を刻んだ例大祭となった。深谷さんは「これからも飯舘村に関わり続けたい」と力強く語った。
(福島テレビ)
