鹿児島県によると、この10年で閉校した県内の公立小中学校は114校あるが、2023年の調査では71校が未活用の状態だという。こうした現状の中、錦江町では全国のクリエーターを対象に、閉校した小学校の跡地を新たな形で活用する取り組みを進めている。
「海との暮らし、あおのクラフトマルシェ」でにぎわう校舎
錦江町の閉校した小学校で開催されたのは「海との暮らし、あおのクラフトマルシェ」。今回で2回目となる町主催のこのイベント、普段はインターネット上でハンドクラフト作品を販売しているクリエーターたちが集まり、直接作品を販売した。
会場には、キラキラとしたアクセサリーや、閉校した小学校を舞台に動物たちが楽しそうに遊ぶ絵、フェルトでできたかわいらしい動物のブローチなど、クリエーター手作りの作品が並んだ。「錦江町をイメージしたブルーの作品を」という町からのリクエストを受け、青色の商品も多く展示された。
また、クリエーターに教わりながら自分で作品を作るワークショップも開かれ、地元の人々とクリエーターが交流した。キーホルダーを作った子どもは「楽しかった」と笑顔を見せ、父親も「こういうワークショップがあったらやりたいと言うのでさせようと思った。いい機会だったと思う」と話した。
全国のクリエーターに場所の提供を!
集まったクリエーターには共通点がある。「神戸から来ています」「神奈川県横浜市から参りました」「茨城県つくば市から参りました」と語るように、全国各地から錦江町を訪れていた。
その理由は、錦江町が閉校した小学校の跡地をアトリエとして使ってくれる人を探しているからだ。錦江町未来づくり課の上吹越寿次課長は「都会の方々は作品を作ったり、保管する場所に困っているところもある。地方は学校が閉校になってしまって、大きな施設で空きが出てきているので、そういう所を少しでも活用できないかということでチャンスがあるのではないか」と語る。
校舎見学ツアーの開催
マルシェ終了翌日には、参加クリエーターによる校舎見学ツアーが行われた。最初に訪れたのは2025年3月に閉校したばかりの池田小学校だ。この学校は5年前にエアコンを新調したばかりで、隣接する教職員用住宅も完備されている。
このツアーの目的は、閉校により広い場所を持て余している錦江町と、音や匂いを気にせず作業できる広い場所を必要としているクリエーターたちの悩みをマッチングさせ、解決することにある。
「クリーマ」の全面協力でプロジェクト推進
この企画には、登録者数30万人を超える日本最大のハンドメイド作品販売サイト「クリーマ」が全面協力している。今回のプロジェクトに興味があるクリエーターを募集したところ、全国から定員を上回る25人の応募があった。
参加したクリエーターの一人は「私は絵を描いているんですけど、結構大きな作品を作ることが多いので、なかなか自由に使わせてくれる大きな場所がない。熱い思いのある人のもとで創作できる場所があれば本当にありがたい」と期待を寄せる一方、別のクリエーターは「ありだと思いますがちょっと遠いですよね」と距離の課題を指摘した。
多様な活用方法を模索
錦江町では必ずしも移住にはこだわらず、現在の居住地との「2拠点スタイル」や「シェアアトリエ」としての利用なども視野に入れている。クリエーターによる利用が実現すれば、定期的なマルシェの開催やワークショップの実施など、錦江町の新たな観光スポットになる可能性も秘めている。
クリーマの大橋優輝取締役は「例えば入居してアトリエとして使って平日の日中は制作作業や、夕方あるいは週末はワークショップをしたり、体育館を使ってイベントを起こしたりとか、そういった形で地域の人たちとつながりを持ちながら、自分たちのやりたいことが実現できる、そんな場所ができれば理想」と語る。
関係人口増加の成果も
このツアーは2025年で2回目だが、2024年に参加した作家の中には錦江町のファンになり、この1年で6回も町を訪れた人もいるという。関係人口を増やすという点では、すでに一定の成果が出ている。
閉校した小学校の跡地を活用した錦江町のユニークな取り組みは、地方が抱える課題解決の新たなモデルとして、今後の展開が注目される。
(動画で見る▶廃校が“創作の街”に変わる日──全国のクリエーターが錦江町に集結)
