燃料費の高騰や利用者の減少などで全国的に減り続けている銭湯。それは福井県内でも同じですが、厳しい状況にさらされながらも常連客のために熱い湯を沸かす大野市の銭湯を取材しました。


大野市にある創業60年の銭湯「キューピー湯」。店主の佐々木啓行さん(66)は、火の勢いが絶えないよう何度も窯の戸を開けて木をくべていきます。「他の店と比べると重労働をしているのは間違いないが、自分の健康のためだと思いながら日々やっている」と休みなく体を動かします。
 
キューピー湯は、初代が開業し40年前に父・治男さんが継ぎましたが、2012年に亡くなってからは佐々木さんが受け継ぎました。
  
番台に座るのは、85歳となる母・春子さん。親子二人三脚で店を守っています。
  
「重いでの。釘もいっぱいついてるし」
   
そう言って山のように積み上げられた木材を選別していきます。燃料として使う木材の下準備です。毎日、火をくべる2時間前から取り掛かる、根気のいる作業です。

木材は「工務店や解体業者からリフォームで廃材がたくさん出るので、みんな持ってくる」といい、銭湯周辺の小屋にうず高く、隙間なく積み上げていきます。いま積み上げているのは、ひと冬で使う分だそうで、春の雪解けを待って木材集めを再開します。
   
「人力ではかどらんから、年中無休。休みの日も一日中、木を触っているから森林浴。木に酔ってまう」
  
お湯を温めるため、佐々木さんは黙々と木材を窯に入れていきます。
  
1日に軽自動車1台分にもなるといいます。

小さなタンクに入れた井戸水は80度に熱せられると浴槽へと送られます。その後、タンクの水を沸かす作業を繰り返します。
 
そして午後2時すぎ、湯の準備が完了しました。
 
火を入れてから2時間半ほどかかりました。
   
「今は自宅に風呂があるし、スーパー銭湯のようにいろんな設備があるわけじゃない銭湯は、魅力がゼロ」と佐々木さん。
  
湯の温度は43度から44度で「悲鳴を上げる人もいる。その時は家庭風呂の人だな、銭湯に入ったことのない人だなと思う」といいます。

そして今回、この湯を味わうのは…田島嘉晃アナウンサーです。
      
「熱いけど、慣れてきた。熱い!気持ちいい!」(田島アナ)
     
週3回くらい来ているという地元の人は「お湯が熱くて、すぐに体が温まる」と話します。

ただ、銭湯の経営は年々、厳しさを増していて、キューピー湯でも40年前と比べて
客数は半分ほどにまで減りました。
     
県内では1960年に145軒ありましたが、1980年には100軒になり、現在残っているのは、わずか12軒となりました。
   
「跡取りがいないから、やめざるを得ない。重油が高騰して辞めた店もあるし、いろんなことが影響している」
  
そう話す佐々木さんにも、跡継ぎはいません。それでも、店をたたむ考えはありません。

「気持ちよかったと番台に言ってくれると、やっていてよかったと思うし、老朽化した店にもかかわらず、我慢して入りにきてくれるお客さんに感謝したい。少しでも希望に添うように一生懸命、体が続く限りがんばりたい」(佐々木さん)
   
「いい湯だった」その声に応えようと、佐々木さんはきょうも火をくべます。
   
跡取り不足や、燃料費の高騰、建物の老朽化など廃業を迫られる理由は様々ですが、来てくれる常連客のため、ひたむきに湯を守り続ける姿がありました。

福井テレビ
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