国内に数千~数万人の患者…
投稿者の治験を担当した東海大学医学部付属病院・炎症性腸疾患センター長の鈴木秀和氏に取材しました。
――好酸球性食道炎とはどんな病気ですか
好酸球性食道炎(EoE:Eosinophilic esophagitis)は、食道にアレルギー性炎症が慢性的に起こる病気です。食道粘膜に好酸球という白血球が集まり、飲み込みにくい、食べ物がつかえる、胸の痛み、逆流症状などを引き起こします。食道が硬く狭くなることもあり、生活の質を大きく損なう疾患です。

――日本国内、世界でそれぞれ何人患者がいるとされていますか
欧米では人口1,000人に1人程度とされ、患者数は数十万人規模と推定されています。一方、日本では診断基準の普及や認知がまだ十分でなく、正確な実数は不明ですが、数千〜数万人程度と推定されています。近年の内視鏡検査・病理診断の普及により、報告数は確実に増えてきています。
――なぜ好酸球性食道炎が難病に指定されたのですか
厚生労働省は 2024年度から「好酸球性消化管疾患(EGID)」を指定難病に追加しました。このカテゴリーの中に好酸球性食道炎(EoE) と好酸球性胃腸炎(EGE)の両方が含まれます。つまり、EoE単独でも指定難病として扱われ、医療費助成や全国的な患者登録(臨床調査個人票)の対象になります。
EoEは、希少疾患であり、慢性的に経過し、自然に治ることが少なく、食事制限や内視鏡治療、薬物療法が必要になる場合が多い病気です。また、有効な標準治療や保険適用の治療薬が限られているため、医療支援と研究推進が必要と判断され、難病に指定されたのです。
世界的に増加傾向も原因は未解明
――現代になって症例数が増えた病気なのですか?
世界的に患者報告数は増加傾向にあります。診断技術の進歩・疾患認知の向上も影響していますが、アレルギー疾患全体の増加、食生活や環境因子、腸内細菌叢の変化、衛生環境の変化などが関与している可能性が指摘されています。ただし、明確な原因はまだ解明されていません。
――今後も患者が増える可能性はありますか?
現状の国際的データを見る限り、増加傾向は続く可能性があります。特に若年男性に多く、アレルギー疾患(喘息、アトピー、食物アレルギー)との関連も注目されています。日本でも適切な診断体制の整備が重要です。
食べ物がつかえる「年齢のせい」だけではないかも…
――似たような症状が出た場合はどうしたらよいですか?
まずは自己判断せず、消化器内科を受診してください。内視鏡検査と生検(組織検査)が診断の要です。現状の治療選択肢としては、
・逆流症状が強ければPPIあるいはPCAB(胃酸分泌抑制薬)
・食事の見直し(アレルゲンの探索、除去)
・ ステロイドの局所療法(保険外または適応外が多い)
・内視鏡的拡張術(狭窄が強い場合のみ)
などがあり、症状や病期に応じた個別対応が必要です。
食べ物がつかえる、飲み込みにくい——。
それは「年齢のせい」「逆流性食道炎」だけではないかもしれません。EoEは、早期診断と適切な治療で生活の質が守れる疾患です。まだ、広く知られていないからこそ、患者さん・家族・医療者・社会で理解を広げ、治療開発と支援体制を進めていくことが大切です。
治験から新薬販売までの確率は数万分の1
厚生労働省によると、治験の最初の段階である「基礎研究」から厚労省に申請され、薬が発売されるまでの確率は「数万分の1」とも言われているといいます。また、動物などに投与する段階を経て、人間に投与する「第1相」からでも、薬として販売するまでは、「数分の1」の確率といわれているそうです。
一体なぜ、数万分の1の確率なのでしょうか。治験を行う主体は、企業と医者の2つに分かれます。医者の場合は、研究費が足りず治験が終了してしまうというケースもあるんです。企業が行う場合でも、薬の有効性、副作用などの安全性、ライバルとなる薬の存在などの理由から撤退することは稀ではないといいます。
「食べ物がつかえる」「飲み込みづらい」…。好酸球性食道炎は、まだ広く知られていない難病です。心当たりのある方は、自己判断せず専門医に相談してください。
(調査報道統括チーム 阿部桃子 社会部厚労省担当 中澤しーしー)
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