中国でスパイ罪で逮捕され、6年もの間拘束された日中青年交流協会の元理事長・鈴木英司さん(65)が、2022年10月に刑期を終え日本に帰国した。

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鈴木さんは逮捕前に7カ月にもわたり監視生活を強いられたが、その実態は想像を絶するものだった。イット!の榎並大二郎キャスターが鈴木さんに話を聞いた。

ネクタイもベルトも外され…「映画に出てくるようなシーン」

榎並キャスター:
まず、どのような状況で身柄を拘束されたのでしょうか。

鈴木英司さん:
北京空港の第3ターミナルに着いたときに、タクシーから降りますとワッと囲まれまして

榎並キャスター:
中国当局は複数人いたんですか?

鈴木英司さん:
6人
いましたね。グッとそのまま車の中に押し込められた。ネクタイを外され、ベルトを外され、時計も携帯も取られて、本当に映画に出てくるようなシーンでしたね。

2016年7月、“日本人スパイ”と疑われ拘束された鈴木さん。その容疑は、東京の元中国大使館員から得た中国と北朝鮮の極秘情報を日本政府機関に提供したというものだった。

しかし、その大使館員は、鈴木さんにとって単なる「古い友人」だったという。

鈴木英司さん:
彼は日本の専門家であって、朝鮮問題の専門家ではない。これは私はよく知っている。私が彼から大きな情報を聞き取ってやろうなんて気はさらさらないですね。

「基本的に丸見え」居住監視の実態

鈴木さんは、身に覚えはなく否定したが、アイマスクをつけられ、施設へ無理やり連れて行かれた。

そこで始まったのが「居住監視」だった。約7カ月で体重が14kgも減ったという。

鈴木さん:
一番苦しかった居住監視ですね。僕は(体重は)96kgありましたから。(施設に)入った時。(施設に)いる間に体重81.9kgですよね。最後出るときは。

模型で再現した居住監視の施設
模型で再現した居住監視の施設

鈴木さんの証言を元に、居住監視の施設を模型で再現し、鈴木さんに詳しく話を聞いた。

鈴木さん:
ここにドアがありますね。ここが入り口ですよ。入りますとすぐ脇に洗面所があります。本来ドアがあるんですが、ドアは取ってあります。

榎並キャスター:
ドアがないということは、トイレやシャワーのときというのは…

鈴木さん:
基本的に丸見えです。ずっとです。

榎並キャスター:
裸とか、トイレも…

鈴木さん:
そうですよ。全部見ています。監視ですから、これ。

24時間照明に照らされる日々

プライバシーはゼロ、常に見られている。それは昼だけではない。

鈴木さん:
夜も暗くなりませんから。照明消しませんから。したがって、私が寝るのを見ているという格好なんですね。

鈴木さん:
普通はこう(ヘッドボードに頭を向けて)寝るんですね。

ところが、私の場合はこう(ヘッドボードに足を向けて)寝なさいという命令をされまして、彼ら(監視員)はやっぱり監視をする必要がありますから、枕をこっち(ベッドの足元の方)へ持ってきましてね。

電気を消すことさえ許されず、24時間照明に照らされる日々。閉ざされたカーテンから漏れる日の光や鳥の鳴き声で、かろうじて時の移ろいを感じていたという。

鈴木さん:
太陽を見たいという話をしましたら、廊下の突き当りに窓があるんですね。で、そこに椅子が置かれまして。15分間です。1回だけでしたね。

太陽を見たのは7カ月間でたった1回、15分間だけだった
太陽を見たのは7カ月間でたった1回、15分間だけだった

榎並キャスター:
1日に1回?

鈴木さん:
いやいや、とんでもない。7カ月に1回だけでした。

心の拠り所は「石川さゆりさんの歌」

榎並キャスター:
7カ月間ずっと24時間監視されている状況で、どうやって心を保たれていたんでしょうか。

鈴木さん:
いつもここで(部屋の中で)歩くんです。運動しろって言われますから、私も運動したいですしね。しょうがないから(監視員の)2人は見ているんですよ。あと、ベッドの床で腹筋やったり。

運動もろくにできず、娯楽もない日々。そんな中、鈴木さんの心の拠り所となっていたのが日本の歌だった。

鈴木さん:
私は石川さゆりさんが大好きなんですね。なので、よくここで石川さゆりさんの歌を口ずさんで。

食事は1日3回出たというが、ご飯と野菜中心のおかず1種類とたまに果物がつく程度で、空腹に耐える日もあったという。

榎並キャスター:
中国側の監視員はどうしている?

鈴木さん:
彼らはここに座ってたばこを吸ったり、お茶を飲んだり、お菓子を食べたり、例えばおなかがすいていても、ここで2人食べているわけですよ。僕は見ているんですがね。

そこで、こんなことをお願いしたこともあったという。

榎並キャスター:
肉が食べたいと言ったら聞き入れてくれるようなところはあったんですか?

鈴木さん:
あったんですが、それが後でですね。「お前肉入れてやったんだから言うこと聞け」とかね。

榎並キャスター:
交換条件みたいな?

鈴木さん:
そういう話なんですよ。

肉体的にも精神的にも追い詰めて秘密を暴露させる、こうした取り調べが中国で行われていたという。

求められる「“是々非々”の関係」

6年間の刑期を終え帰国した鈴木さんにとって、日本に帰ってきたと強く実感できた瞬間は「お風呂に入った時」だったという。鈴木さんは帰国後の話になると、涙をこらえられないという表情だった。家族は、鈴木さんの大好きな刺し身を買って待っていてくれたという。

鈴木さんによると、取り調べを受ける中では相手もフランクに話してくる。そこで過去の記憶を話すと、「お前よく覚えているじゃないか」と、どんどん追及される。

鈴木さんは「今後、自分のような人間をつくりたくない」「仕事などで中国に行く日本人の方に本当に注意してほしい」と、自身の経験を赤裸々に明かしてくれた。日常会話のつもりで話していたことがどこで聞かれているかわからない、そしてそれがどう捉えられるのか。日本の尺度では測れない状況があるという。

これだけ過酷な生活を強いられたが、鈴木さんは日本と中国の関係について「日中関係は大事で、これはもう好き嫌いの問題ではない。ただ、“友好”だけではいけなくて“是々非々”の関係が求められる」と話す。アメリカに次ぐ大国で隣国でもある中国とは仲良くしなくてはならないが、言うときは言う、悪いことは悪いと判断して指摘する関係であるべきだという。

鈴木さんは自身の体験もふまえて、「人権の感覚的に中国は“危険な国”と言わざるを得ない。絶対に戦争してはいけない国だとして、外交努力が必要だ」と強く訴えた。

(イット!「直アタリ」1月10日放送より)