人里で相次ぐクマの異常出没が、観光誘客にも暗い影を落としている秋田県。紅葉が山々を彩り、本来なら観光客でにぎわうはずだった観光地の宿泊施設にはキャンセルの連絡が相次いでいる。そんな逆風の中、200年以上の歴史を持つ湯沢市の老舗旅館が、客の安全と信頼を守るために独自の対策を続けている。
200年続く温泉宿の苦悩
湯沢市皆瀬の奥小安峡にある大湯温泉「阿部旅館」は、200年以上続く歴史を背負いながら営業を続けている。
代表の阿部司さんが大切にしているのは「訪れた人が自分の家に帰ってきたように感じられるもてなし」だ。
しかし、旅館近くで女性がクマに襲われる被害があり、市内の住宅にもクマが侵入するなど、現実は厳しい。
キャンセルの波 ロケット花火で守る日常
阿部旅館には「クマは出ていないか」「安全なのか」といった問い合わせが相次ぎ、2025年は10件ほどのキャンセルが発生した。2024年は1件もなかっただけに、その影響の大きさが際立つ。
そこで阿部さんが始めたのが「ロケット花火」による予防策だ。
毎日夕方、露天風呂に隣接する山へ向けて花火を打ち上げる。火薬のにおいと爆音はクマを遠ざける効果があるとされ、角度を工夫して山全体に響くようにしている。
1本400円と経済的負担は小さくないが、「出てからでは遅い。予防が大事」と阿部さんは語る。
客の不安に寄り添う誠実な姿勢
さらに旅館では、クマの状況や対策を隠さず発信している。
ブログには「クマが心配でのキャンセルも受け付けています」と記し、客の不安に寄り添う姿勢を示す。無理に安心を強調せず、「落ち着いたら来てください」と伝えることで、信頼関係を築こうとしているのだ。
「温泉文化を守る」強い思い
阿部さんの根底にあるのは「温泉文化を守りたい」という強い思いだ。長い歴史の中で育まれてきた温泉地を、クマの出没によって閉ざすわけにはいかない。
試行錯誤を重ねながらも営業を続ける姿は、自然と共生する地域観光の難しさと、それに立ち向かう人々の覚悟を映し出している。
紅葉の美しい季節に影を落としたクマの存在。だが、その中でなお「人を迎え入れる場を守り抜く」という旅館の挑戦は、地域の未来を照らす灯火となっている。
(秋田テレビ)
