「スナックひとみに行きたい」
懇親会で男性が口にした一言が発端となり、長年同じプロジェクトに従事してきた2人の男女が法廷で争うことになった。原告の男性・高橋良樹さん(仮名)は、とある企業の会社員で、被告の女性・田中ひとみさん(仮名)は、コンサルティング会社の社員だ。
原告である高橋さんが勤務する会社のプロジェクトのコンサルティングを、ひとみさんが所属する会社が行っており、2人は5年にわたって共同で仕事にあたっていた。
高橋さんがひとみさんを相手取り、計600万円超の損害賠償を求める裁判を起こした経緯に迫った。
争点は2つの“不適切言動”
原告・高橋さんの主張によると、訴訟になったきっかけは、ひとみさんが勤務先に対し「高橋さんから不適切な言動を受けた」と申告したことだった。
高橋さんは自社のハラスメント窓口の担当者から弁明を求められ、プロジェクトから外されたという。結果的に適応障害を発症して、休職を余儀なくされたと主張した。
ひとみさんが「不適切な言動」と主張したのは、過去の懇親会での発言だった。
一つ目は2023年12月の懇親会で、ひとみさんが二次会の場所を尋ねた際、高橋さんが「スナックひとみに行きたい」と答えたこと。
ひとみさんはこの発言を受けて、高橋さんが自分の自宅で飲み直したいという趣旨で発言したと受け取った。
二つ目は、2024年3月の懇親会でのことである。
懇親会終わりで高橋さんが帰宅する際、高橋さんの自宅に帰るための最短経路となるA駅ではなく、ひとみさんの自宅の最寄り駅であるB駅を利用すると言った。
このとき、ひとみさんは「自宅を特定されるのではないか」と感じたという。
ひとみさんはこの2点について自分の会社と高橋さんの会社に相談。高橋さんは、自分の会社のハラスメント担当者から事情説明を受け、結果的に適応障害との診断を受けるに至った。
「スナックひとみ」の意味
まず一つ目の「スナックひとみ」に関する原告の高橋さんの主張はこうだ。
ひとみさんは以前「スナックを開きたい」と話しており、その進捗を冗談めかして尋ねただけだというのだ。つまり、発言はしたが、ひとみさんの自宅で飲み直したいという意味ではないという。
一方で、被告のひとみさんは、以前スナックを出店したいとの発言をした事はあったが、それは宴席での冗談やその延長線上の発言に過ぎないと反論した。
実際に、「スナックひとみ」という飲食店を開業していた事はなかったため、「スナックひとみに行きたい」という発言は自宅で飲み直したいという趣旨と理解したのは当然であると主張したのだ。
