秋田・能代市の弁当店『nicon』が開店して1年。経営者の女性は、大雨による浸水被害や3人の子育てとの両立に苦労しながらも、地域の子供や住民の居場所づくりを目指し、食を通じた交流を広げている。
「子供たちの居場所になりたい」
秋田・能代市松長布地区。小学校のすぐ近く、駐車場の一角にある鮮やかな青色の店舗が目を引く。
ここは、弁当や総菜を販売する『お弁当屋さん nicon』。店を切り盛りするのは、八峰町出身の石田香奈さん(32)だ。
料理好きの父の影響を受け、幼い頃から台所に立つのが好きだった石田さん。17歳から約5年間、能代市内の飲食店で働き、調理や接客を学んだ。結婚・出産を経て保険会社に勤めた後、2024年8月、念願だった自分の店をオープンした。
店を構えた場所は、小学校からわずか300メートル。子供たちが行き交うこの場所を選んだ理由について、石田さんは「今の時代、子供たちが集まる場所が少ない。だったら自分がその場所になってもいいのではないかと思った」と語る。
店名『nicon』は、笑顔の「にこにこ」から名付けた。笑顔を大切にしてきた石田さんの人生観が込められている。
懐かしい家庭の味を日替わりで
『nicon』の弁当や総菜は、季節の食材を取り入れた家庭的な味わい。
秋冬限定の『ホルモン煮込み』は、やわらかく煮込んだ豚ホルモンに地元八峰町産のネギを添えた人気メニューだ。
開店当初からの定番『鶏の唐揚げ』は卵や小麦粉を使わず、片栗粉で衣をつけることでアレルギーにも配慮している。
試練を乗り越えて
オープンから1年。地域に愛される店となった『nicon』だが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。
2024年9月の大雨で店舗が浸水し、一時休業を余儀なくされた。
さらに、3人の小学生を育てる母として、仕事と育児の両立にも悩み、苦心してきた。
「子供と遊ぶ時間が減ってしまったので、店で一緒に料理をするなど工夫している」と話す石田さん。子供たちとの時間を大切にしながら、日々店を切り盛りしている。
食で人と人をつなぐ…未来への願い
石田さんが描く次の目標は“子ども食堂”のような活動だ。
「地域の子供たちが少なくなっていて、親も忙しい。そんな子供たちのために居場所をつくりたい」と語る石田さん。
笑顔を大切に、食を通じて人と人をつなぐ『nicon』。その青い店舗は、人口減少が進む町で人々の心を温める灯りとなっている。
(秋田テレビ)
