東京・国立市の自宅で2024年7月、母親のフクさん(当時102)の首をビニール紐で絞めるなどして殺害した罪に問われている小峰陽子被告(71)。
初公判では「間違いありません」と起訴内容を認めた。

「どこにでもいそうな穏やかなおばあさん」といった印象で裁判中もしっかりとした口調で話していた。いわゆる“老々介護”の末の殺人事件。小峰被告はなぜ犯行に及んだのか。

母親から同居を頼まれ…“90歳の両親を支える生活”

小峰被告は高校卒業後、銀行に勤め、23歳で結婚。2人の子どもを出産したが46歳で離婚した。離婚後は両親の自宅に1度戻り、その後1人暮らしとなった。

容疑者が両親と生活していた自宅(2024年7月)
容疑者が両親と生活していた自宅(2024年7月)
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小峰被告は53歳の時に更年期障害になり、その後仕事ができず約5年間、両親の仕送りで生活していた。2012年ごろ、小峰被告が58歳の時に母親のフクさん(当時90)から「介護を手伝って欲しい」と頼まれ、実家に再び戻ることになった。

実家ではともに90歳の両親と生活し、買い物や洗濯などをしてサポートしていたという。
共に生活していく中でフクさんは徐々に認知症の症状が見られるようになっていった。

同居を始めて3年後には家の中をハイハイするようになり、トイレに行きたい時に便座に上がれなくなったため、ポータブルトイレを用いるようになったという。

母親は「頑固な性格」救急搬送を拒むことも

2018年の夏、フクさんが脱水で入院し、退院して以降はケアマネージャーが就くことになった。フクさんのケアマネージャーは証人として裁判に出廷し、フクさんの印象ついて次のように話した。

証人のケアマネージャーはフクさんの印象ついて「頑固」だと話す(廷内 2025年11月11日)
証人のケアマネージャーはフクさんの印象ついて「頑固」だと話す(廷内 2025年11月11日)

フクさんのケアマネージャー:
フクさんは環境の変化を望まない、頑固。「何もいらねぇ」しか言わない。

小峰被告の介護負担を考えてショートステイなども提案したが、本人は頑なに首を横に振って応じなかったという。また、夏に脱水で救急を呼び、救急隊が到着した際には「行かない」と搬送を拒んだこともあった。

トイレ行けなくなり…小峰被告の妹「ボーッとしていた」

状況が大きく変わったのは犯行の1週間前。フクさんがポータブルトイレに自力で行けなくなり、小峰被告が抱きかかえて連れて行ったが、トイレの頻度が10分おきくらいで、自身も運んでいるうちに腰を痛めてしまったという。紙おむつにしても良いということや、腰を痛めて運べないことも伝えたが、認知症もあり理解してもらえなかった。

小峰被告の妹は小峰被告「疲れている様子だった」と印象を語った
小峰被告の妹は小峰被告「疲れている様子だった」と印象を語った

その後、訪問したケアマネージャーに「母を施設に入れたい」と申し出て、事件3日前に施設が即決。犯行前日には施設職員と面談し、入居説明を受けていた。その日、小峰被告に代わりフクさんの面倒を見るため自宅を訪れた小峰被告の妹は法廷で、「道路にいたので声をかけてもボーっとしていて最初は私のことに気づいていない様子だった」、見学が終わって帰ってきた小峰被告と話した際も「疲れている様子だった」と当時の印象を語った。

ベッドから落ちた母親を戻せず「自分1人でやるしかない」

事件当日、午前4時過ぎに「ガタン」と大きな音がして目が覚めた小峰被告がフクさんの様子を見に行くと、フクさんがベッドから落ちていた。小峰被告は「戻さないといけない」と思ったが、腰が痛く戻せなかったため、助けを求めて110番通報した。しかし、警察からは「これは警察の仕事ではない」と断られたため、119番通報した。消防からは、結果的に出動してもらえることになったが、「本来の仕事ではないので同じことが起きても次はかけないで」と対応された。

弁護人:
それを聞いてどう思った?

小峰被告:
誰に助けを求めたら…ショック。暗くなって憂鬱な気持ちになった。

救急隊が帰ってからもフクさんが「トイレに行きたい」と何度も訴えてきたという。

弁護人:
殺意はいつ持った?

小峰被告:
覚えていなくて…世の中に自分1人しかいない。助けてくれる人も思い浮かばない。自分1人でやるしかないと思い詰めて、殺すしかないという考え方になっていったと思う。

犯行後、小峰被告は一瞬、長野県に逃走しようと考えたという。長野県と考えたことについて、小峰被告は、「自宅の目の前の中央線で長野行きの電車が通り、介護の時に電車を見て行きたいと思っていた」と話した。

「娘に殺されるという乱暴な死に方をさせてしまい申し訳なかった」と心境を語った小峰被告
「娘に殺されるという乱暴な死に方をさせてしまい申し訳なかった」と心境を語った小峰被告

一方で、「防犯カメラなどがあり、すぐに捕まると思った」と話したほか、「(母を)置きっぱなしでどこかに行くことができなかった」として犯行後自ら110番した。

また、「救急隊が帰った後、トイレに行きたいと言っていた母の話を聞かずにそのまま自分の部屋に行けば良かったのでは」という質問に対し、「できなかった」「一生懸命になりすぎた。お母さんをどうにかしなきゃ」と答えた。

「事件直後は犯行への後悔はなかった」と語った一方、「(母親に対して)娘に殺されるという乱暴な死に方をさせてしまい、申し訳なかった」と心境を語った。

“実刑か執行猶予か” 判決は17日

検察側は「見放されたというその時の感情に任せて犯行に及んだ」とした上で「介護疲れによる事案とは一線を画するもの」と指摘し、懲役8年を求刑。

一方、弁護側は「長期にわたる介護で疲弊し、冷静な判断ができなくなった」などとして懲役3年・執行猶予5年を求めた。小峰被告は最後に「今述べておきたいことはありません」と話し、結審した。判決は17日言い渡される。

(執筆:フジテレビ・社会部 大熊悠斗)

大熊悠斗
大熊悠斗

フジテレビ報道局 社会部記者。
司法クラブ裁判担当。
これまでに警視庁クラブで生活安全部・交通・薬銃などを担当。