日本人の2人に1人が直面するとされる、がん。命を守る砦となる検診の重要性は誰もが知るところだが、福井県内での受診率は48.9%と、半数に届かないのが現状。がんで悲しむ人を一人でも減らすために、地域や企業に自ら入り込み、支援の輪を広げようと活動する女性がいる。

「私たち医療者が、地域に飛び出したらいいんじゃないか」

地域や企業に入り健康管理業務を行う「オリナス」代表取締役の加藤瑞穂さん。元々は大学病院で看護師として勤務していたが、大学時代から地域看護には強い関心を持っていたという。

加藤瑞穂さん
加藤瑞穂さん
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その後、訪問看護師としてがん患者やその家族と接する中で「福井にも、がん患者が安心して過ごせる居場所を作りたい」という思いを強くした。東京にある「マギーズ東京」のような場所が理想だったが「車社会の福井では、治療中の患者が運転ができないという課題に直面した」。

各地でがんサロンを開催
各地でがんサロンを開催

そこで生まれたのが、「居場所を持たないがんサロン」という逆転の発想だった。

「私たち医療者が地域に飛び出して、私たちが移動したらいいんじゃないか、と考え生まれたがんサロンなんです」(加藤さん)

訪問看護師として活動していた加藤さん
訪問看護師として活動していた加藤さん

2023年に設立したサロン「がんこみ」は、特定の場所を持たず、県内各地で少人数でも開催する。あえて病気の種類で参加者を区切らず、異なるがんを経験する人々が悩みや希望を共有できる場を目指した。

病院のがんサロンが治療中の専門的なサポートを担うのに対し、「がんこみ」は社会復帰を目指す人々が抱える「暮らし」の悩みに寄り添う。仕事と副作用の両立など、病院と暮らしを“つなぐ”役割を果たしているのだ。

自分の健康管理が後回しになりがちな女性

加藤さんは、福井県のがん検診受診率48.9%という数字に強い危機感を抱いている。

「諸外国、先進国の中では本当に最下位のレベル。アメリカでは70%以上になっている」(加藤さん)

福井県内のかん検診受診率
福井県内のかん検診受診率

訪問看護の現場で、発見が遅れたために助かるはずの命が失われるケースを数多く目の当たりにしてきた。そのため「検診率の低さは改善していかなければならないと」加藤さんは力を込める。

加藤瑞穂さん
加藤瑞穂さん

福井は共働き率が高く、女性も仕事や子育てに追われる毎日を過ごしている。自分のための有給休暇を取ることにためらいを感じ、健康管理が後回しになりがちだという声は少なくない。

「友働き率が高いなら私たちから企業の中に入っていけばいい」

その課題を解決するために加藤さんが立ち上げたのが「企業保健室」事業だ。看護師が直接企業に出向き、従業員の健康相談に応じる取り組み。

「友働き率が高いなら私たちから企業の中に入っていけばいいんだと。まさに思いを届けたい人たちが、そこにいるのだから」(加藤さん)

福井県内の企業の9割は、産業医の配置が義務付けられていない50人未満の事業所。気軽に相談できる医療従事者がいないという現状がある。

企業保健室は、従業員本人の健康相談はもちろん、親の介護や子供の病気といった家族に関する悩みにも耳を傾ける。働く人を、その人を取り巻くコミュニティ全体で支えたいという思いが込められているのだ。

人を思いやる「ナースイング力」向上へ

こうした活動が評価され、加藤さんは今年「ふくい女性のチャレンジ賞」を受賞した。

加藤さんが目指すのは、看護師だけが頑張るのではなく、社会全体に「ナースイング力」を広げていくことだ。「ナースイング力」とは、資格の有無にかかわらず誰もが持つ、人を思いやる力。会社で仲間が休んだ時に「大丈夫かな」と声をかける、その心だ。

「会社の中でお互い心配し合って声を掛け合えるような動きが広がっていくことで、福井県のがん検診率を上げていけるのではないか」(加藤さん)

失わなくてよかった命を一つでも救うために、加藤さんの活動が広がりを見せている。

福井テレビ
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