死と向き合う場所といえば、まず病院が思い浮かぶ。実際、亡くなる場所の割合は、病院が約7割を占めている。
ただ、病院で死を迎える人が増加し続けると、病院機能が維持できなくなるといわれている。その解決策の一つとしてあげられるのが「在宅医療」だ。
在宅医療を選んだ末期がん患者とその家族を通して、人生の最期を迎える場所を考える。                

本人の強い希望で在宅医療に切り替え

福井市の橋本実生さん(72)は末期の尿管がんを患い、余命宣告を受けていた。
症状の悪化で2022年3月に入院。だがその翌月、本人の強い希望で在宅医療に切り替えた。

がんで余命宣告を受けた橋本実生さん:
入院はもうしたくない。家族が家にいると全然違う。誰よりも勝る、ありがたい存在

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妻の愛子さん:
病院にいるとコロナで面会できない。家にいると常に顔を見られて、本当に安心

ただ、家族にとって末期がん患者の日常生活を支えるのは簡単なことではない。
妻の愛子さんが薬をわたすと、橋本さんは「飲みたくない」と拒絶。何度も促すが「薬を飲むと身体が辛くなる」と言ってきかない。

がんで余命宣告を受けた橋本実生さん:
こんな薬、飲みたくない…

橋本さんの自宅には毎日、訪問看護師が訪れている。家族ではできない医療的サポートを施すためだ。

妻の愛子さん:
家族だけでは見られない。限度がある

終末期患者の在宅医療は、家族の日常支援だけでなく、もしもの時の医療体制の整備も必要となってくる。

訪問診療を行う医師は

橋本さんの訪問診療を行う福井市の三船内科クリニックの三船真二院長。訪問診療は、病院に比べて検査は限定される。特に患者の容体が急変したときの判断が難しいと話す。

三船内科クリニック 三船真二院長:
自宅だと血液検査と心電図くらいしかないので、具合が悪い時に薬を飲んで家で様子を見るか、病院に入院し、くわしい検査を受けるかの判断に迷う

容体が急変した時、医師は家に駆け付ける必要がある。外来診療をしながらの対応に、高いハードルを感じる開業医もいるという。

三船内科クリニック 三船真二院長:
ほとんどの開業医は一人でやっているので、実際呼ばれなくても精神的負担がある

三船内科クリニック 三船真二院長:
医師が多くない現状があり、複数の医師で訪問診療ができる体制がとれると、お互い協力しながら時間外の対応もできる

「最期まで一緒にいることができてよかった」

2022年6月11日、橋本さんは自ら望んだ通りに自宅で亡くなった。死の直前まで普段通り生活を送っていたが、妻の愛子さんが外出したわずかな時間に息を引き取った。

妻の愛子さん:
苦しまずに、いつ亡くなったのかもわからなかった。病院だと「今危ない」と医師が教えてくれるが、家で見ているとわからなかった

あまりに突然で、今でも不思議な感覚だという愛子さん。それでも、最期まで一緒にいることができてよかったと在宅療養を振り返った。

妻の愛子さん:
本人の希望だったし、家で看取れてよかった。大変なこともありケンカもしたが、今となっては自宅でよかった。なかなか今は畳の上で死ねないから

医療の進歩とともに病室で亡くなることが当たり前になった今、自宅で家族とともに最期を迎える在宅療養が見直されている。

(福井テレビ)

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