ゴミ当番をしていた親子にトラック荷台部分の扉を衝突させ、2人を死亡させたにもかかわらず現場から逃走した87歳の男について、静岡地裁沼津支部は懲役5年6カ月の実刑判決を言い渡した。
救護義務違反について否認
過失運転致死などの罪で判決を受けたのは沼津市に住む鮮魚販売業の男(87)で、2024年1月、同市の県道でゴミ当番をしていた近くに住む男性(当時33)にトラック荷台部分の扉を衝突させて跳ね飛ばし、それによって母親(当時59)も転倒させ、いずれも死亡させたにもかかわらず、救護や通報などをすることなく現場から逃走したとされている。

これまでの裁判で、男は「衝突音は聞こえなかった」と述べ、「弁護人から証拠を見せられて事故を起こしたことがわかっただけで、事故当時の記憶は無く、捜査段階でどのような供述をしたかも覚えていない」と主張。
2人を死亡させた事実については争わない姿勢を示しつつ、弁護人は「人を死傷させたという認識がなかったため、不救護・不申告の故意があったとは認められない」と起訴内容の一部を否認していた。
厳しく非難も返納返納等を考慮
こうした中、11月13日に地裁沼津支部で開かれた判決公判。
腰が90度に曲がった男はゆっくりとした歩きで入廷すると、弁護人から「補聴器を付けますか?」と聞かれるも「付けても聞こえないんだ」とぼやきながらも装着し、証言台の前のイスに着席した。
判決の中で、薄井真由子 裁判長は走行実験の結果から事故時に相当の衝撃があったと認定し、「衝撃を覚知した時点で、事故の運転により人に死傷結果を生じさせたかもしれないとの未必的認識があった」と指摘。
その上で「扉の施錠設備の修理や閉め忘れを未然に防ぐための措置を講じていなかった以上、扉の固定に対する確認を怠れば、人身事故等の大きな事故になりうることは容易に想像がつく状況にあり、過失は非常に重大」と断罪した。
また、2人が身を守る術なく突然命を絶たれたことから「無念さは言葉に尽くしがたいものがあり、遺族が喪失感に苦しみ、被告に対して強い処罰感情を有していることも十分に理解できる。救護義務違反の故意が未必の故意にとどまることを考慮しても、同種事案の中でも重い部類に属する」とも話し、「自己の責任への自覚に乏しい」と非難。
一方で、任意保険により一定の賠償が見込めることや男が事故後に運転免許証を返納し、車両も廃車にしたことなども考慮し、懲役7年の求刑に対して懲役5年6カ月の判決を言い渡した。
最後に薄井裁判長が「このような痛ましい事故をあなた自身が起こしたということにちゃんと向き合ってほしい」と説諭すると、黙ってうなずいた男。
ただ、公判を通して最後の最後まで謝罪の言葉を発することはなかった。
判決を受け、検察側は「判決が出たばかりで、コメントすることはない」と話し、弁護側は週明けに男と話をして控訴するか決めるという。
男の弁護人は「過失運転致死の判決としては重めだと思う。被害者に落ち度はまったくない。被告は扉の施錠を忘れ、以前もぶつけたことがあったのに改めなかったという過失の大きさを重く見たのだと思う」との認識を示している。
(テレビ静岡)
