広島県北部・庄原市の山あいを流れる西城川。
そこに眠っていたのは、はるか1600万年前の“海の記憶”だった。地元の有志が専門家と連携しながら力を合わせ、古代のクジラ化石を掘り出した。

県北の川底から現れた「クジラ」

11月8日、庄原市・西城川のせき止めた一角に人だかりができていた。
長靴姿の人々が泥をすくい上げ、工具を手に慎重に掘り進める。青空の下、冷たい川面から湯気が立ちのぼっていた。

この記事の画像(7枚)

「回っているのが肋骨、胸の骨ですね。形が丸く出ているので、生きていた当時の状態がそのまま残っているのかなと。見える限り歯がないのでヒゲクジラ類とわかります」
そう説明するのは、化石を発見した大澤仁さん。川底に埋まっていたのは全長約4~5メートルのクジラの化石だ。全身がほぼ残る例は珍しく、下あごの骨や肋骨まではっきりと形をとどめている。

1600万年前「繁殖地だったのでは?」

発掘現場は山あいの川で、海から遠く離れた場所。にもかかわらず、庄原では過去40年ほどの間に少なくとも19体ものクジラ化石が見つかっている。

庄原市立比和自然科学博物館
庄原市立比和自然科学博物館

その理由は、かつてこの一帯が遠浅の海だったことにある。県北部には「備北層群」と呼ばれる1600万年前の地層が広がっており、海の生きものたちの痕跡を今に伝えているのだ。
庄原市立比和自然科学博物館の森繁光晴館長は「長い年月を経て、海の底だった大地が隆起している」と話す。

クジラ化石を発見した大澤仁さん
クジラ化石を発見した大澤仁さん

「これだけ多くのクジラ類が出てくるのは全国的にもまれ。子どものクジラ化石が多いので、繁殖地だったのではないか」と大澤さんは推測する。

“地元発掘隊”が守る歴史ロマン

今回の発掘を手がけたのは、地元の有志でつくる「庄原化石集談会」。クラウドファンディングで約230万円を集め、侵食や流失を防ぐため掘り出しに踏み切った。

有志の1人、木吉智美さんは「大昔のものが埋まっているのはすごくワクワクします。ここが1600万年前には海だったんだみたいな」と目を細めた。

「頭が一番大事、できれば壊れないように」
「ストップ、ストップ!ひびが入るよ」
そんな言葉を交わしながら、参加者たちは岩のような地層を砕き、慎重に掘り進めた。化石全体を一度に取り出すことは難しいため、いくつかのブロックに分けて周りごと切り出していく。
やがて――

周囲の岩を砕き落とし「てこの原理」で切り出す作戦
周囲の岩を砕き落とし「てこの原理」で切り出す作戦

「第1号!喜ぶのはまだ早い」
拍手と歓声が上がった。1600万年前の硬い地層から、クジラの骨の一部が地上へ姿を現したのだ。

太古の海の記憶「未来に残したい」

発掘現場では、地元の人々が専門家と連携しながら熱意をもって発掘を続けている。
「庄原ではクジラ化石が見つかっても『またか』と言われるけれど、私たちが一生懸命掘っているのは自分たちが喜ぶためではなく、未来に残したいからです」と大澤さん。

クジラ化石を発掘する「庄原化石集談会」の人々

西城川にはまだ2体のクジラ化石が眠っており、2025年度中をめどに再び発掘が予定されている。
はるか昔、海だった頃の記憶を未来へ…。人々の情熱が新たな歴史ロマンを掘り起こしていく。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。