任期満了に伴う11月9日の広島県知事選で、元副知事の横田美香氏(54)が初当選した。県政史上初の女性知事の誕生である。経済・産業の活性化や若者の流出対策を柱に掲げ、意気込みを語った。
与野党の支援を受け、圧勝で初当選
今回の選挙では、自民・立憲・国民・公明の与野党4党に加え、湯崎県政を支えてきた県議会主要3会派が横田氏を支援。岸田文雄元首相をはじめ多くの国会議員も応援に駆けつけた。
結果、横田氏は55万2614票を獲得し、大差で初当選。県政史上初の女性知事として、新しい一歩を踏み出した。
一夜明け、万歳三唱の余韻が残る広島市中区の選挙事務所でテレビ新広島のインタビューに応じた。
「選挙の準備期間は短く、初めての挑戦でしたが、多くの方々に助けられてここまで走ってこられたと思います。支援の輪を広げてくださったすべての皆さんに感謝しています」
支援を受けた喜びを語りながらも、横田氏は「着任まで1カ月もない。身の引き締まる思いです」と笑顔の奥に確かな決意をのぞかせた。
「人口減少・若者流出」対策に意欲
テレビ新広島が県内の有権者300人を対象に行った調査では、「新しい知事に期待すること」として「経済・産業の活性化」(40.7%)が最も多く、「人口減少・若者流出対策」(21.9%)が続いた。また、「新病院の整備」(18.2%)や「教育・子育て支援」(5.6%)など、生活基盤の充実を望む声も多い。
横田氏は、こうした県民の期待をまっすぐに受け止める。
「若者の転出超過は広島が直面する大きな課題です。だからこそ経済を活性化させ、新しい産業を呼び込み、イノベーションが生まれる好循環を作っていきたい。働きやすさや音楽・アートなどの文化的な魅力も高め、“人を引き付ける県”にしていきたいと思います」
農林水産省のキャリアを生かして
横田氏が描くのは、産業の“多様性”を軸とした経済戦略だ。
「半導体やAI、DXなどの情報産業はもちろん、広島の強みである既存のモノづくりにも新しいイノベーションを起こしたい。さまざまな産業を集めることが大事だと思います」
一方で、30年間にわたる農林水産省での経験から、一次産業への言及も注目されている。
「農村部の人口減少が進む中で、担い手が減っても農業を維持するためには農地の集約化や水路整備などのハード対策が必要です。同時に、新しく就農する人を地域全体で支える仕組みも整えたい。また、気候変動に対応する技術開発・研究も県が主体となって着実に進めていきます」
選挙戦で一番気になったのは「柿」
選挙戦を通して「さまざまな現場の声を聞いた」と話す横田氏。
県内86の旧市町村を回り、特に印象に残ったのは、多くの実をつけた“柿の木”の風景だった。
「どこの地域にも田んぼや神社があって日本の原風景が残っているのですが、一番気になったのは“柿”。多くの民家に柿の木があって、実がたわわに実っていても誰も取らない。それは高齢化や人口減少の象徴でもあります。クマによる被害も心配だなと…」
その柿はいま、クマのエサにもなっている。近年、全国的にクマの出没が相次ぎ、農作物への被害も深刻化している。手入れが行き届かなくなった里山は、鳥獣被害の温床になりかねない。
放置された柿の木を語る横田氏のまなざしに、人柄の温かさがにじんでいた。
湯崎県政を継承しつつ“独自カラー”を
選挙戦最終日の夕方、広島市中心部では横田氏の隣に湯崎英彦知事の姿があった。16年間県政を率いた湯崎知事は最後まで街頭に立ち、後継である横田氏への支援を呼びかけた。
「本当に素晴らしい結果になってうれしく思っています。私自身一生懸命やってきたこともありますし、その中でいいものは引き継いでいってくれるとうれしい。見直すべきところがあれば見直して進めていただきたい」
湯崎知事はエールとともに穏やかな安堵の表情を見せた。

一方、今回の知事選の投票率は30.09%と前回を4.58ポイント下回り、過去2番目の低さにとどまった。関心の低下が指摘される中での選挙だったが、県政の“バトン”は確かに渡された。
湯崎知事のもとで副知事を務めた横田氏は、県政の継続と刷新の両立を目指す。
「湯崎県政16年の中で、産業政策、働き方改革、平和行政…新しい挑戦がたくさんありました。その“チャレンジする精神”を引き継ぎながら、まだ解決できていない多くの案件を自分の感覚でしっかりと進めていきたい」
横田氏が掲げる重点政策は次の5つだ。
①農林水産業の生産力強化、次の世代に残す
②若者・女性が住みたくなる地域づくり
③地域資源を活かした観光振興
④防災・減災対策、危機管理の強化
⑤核兵器廃絶と恒久平和に向けた取り組みの前進
そして“独自色の政策”について問われると、こう語った。
「湯崎知事とは異なる経験も積んできました。女性活躍を含め、世の中は変わってきています。新しい広島県への挑戦を私自身もしていきたいと思います」
県政初の女性知事が描く「新しい広島県」は、いま多くの期待を背に始動の時を迎えようとしている。
(テレビ新広島)
