広島県が「全国ワースト1位」の記録を更新してしまった。1月30日、総務省が発表した最新の人口動態調査結果。広島県は転出が転入を上回る「転出超過」が3年連続で全国最多に…。人口流出に歯止めはかかるのか。

前年より拡大 全国唯一“1万人超え”

総務省が2023年の国内の人口移動の状況を発表。「転出超過」、つまり住所を県内に移してきた人数より他の地域に移っていった人数が多かった県が判明した。転出超過が多かった順にランキングで見ると「広島県」はワースト1位。2位以下を引き離し、マイナス1万1,409人で全国唯一の“1万人超え”。さらに前年と比較して全国で最も転出超過が拡大した県だった。

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広島県の転出超過ワースト1位は、実に3年連続だ。この深刻な問題を県民はどのように受け止めているのか。

30代・岡山出身の男性:
土地代ですかね。家を建てたいとなったときに意外と広島は高いんで。市内の駐車場代も結構高い。定住するとなったら、そのへんの費用の問題が出てくるので

30代・女性:
子どもがいる立場としては、「こども医療費」の所得制限も広島市は厳しいので、県外へ出て行かれても無理はないのかなって気はします。子どもに関するものは一律に補助してほしいです

50代・関西出身の女性:
最近、デパートが縮小したりつぶれたりしている。今、本通り(広島市中区)を見ても人が少ないですよね。関西は平日でもめちゃくちゃ人が多いですし、やっぱり違います。私は反対に人が多いと住みにくいので広島の方がいいです

60代・男性:
雇用がね…。若い人が活躍できる会社などが増えれば広島から出ないし、他の地域から来る人もいるのでは。しかし広島は住みやすいところだと思いますよ。適度に都会で、適度に田舎

専門家「県は反省した方がいい」

若い世代を中心に歯止めがかからない人口の流出を受け、県も対策に乗り出そうとしている。

湯崎英彦知事:
いろんな社会的・経済的な影響が出てくるということで、厳しい結果だと受け止めています。改めて分析して、その結果を踏まえた社会減対策を再構築していきたい

県は、若い世代の転出要因について調査・分析を進め対策を再構築するための事業費、約3,000万円を2024年度の一般会計当初予算案に盛り込む計画だ。調査では、企業の採用や学生の進学・就職、さらに移住の実態などに関するアンケートやヒアリングが行われる予定。魅力を感じる企業の条件や雇用環境以外の要素の影響などをポイントに分析が進められ、効果的な対策が検討されることになっている。

人口流出が3年連続ワースト1位という結果に、人口動態調査の専門家は独自の調査をもとに非常に厳しい見方をしている。

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さん:
2023年1月から11月までの状況を確認すると、女性は全世代で転出超過です。かつ男性も50代後半と70代後半のおじちゃまとおじいちゃま以外は全世代で転出超過。ここまで県民に選ばれていないということを、県は少し反省した方がいいと思います。すべての世代に逃げられているので、完全に時代遅れなんです

若い世代の人口流失についても、この傾向は明らかだと専門家は指摘する。

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さん:
男女同数に逃げられているのは恐ろしいことです。どちらにも刺さっていない。若い世帯の多くは共働きを理想としています。男女ともに、理想のライフデザインが広島では描けないからこういうことが起こっている

なぜ「22歳」の流出が多い?

特に大学を卒業する「22歳」の流出が多く、東京一極集中が浮き彫りとなっている。広島県内の大学はどのようにみているのだろうか。3つの大学に話を聞いた。

まずは広島大学。全体の3割が県内出身、7割は県外出身の学生が通う。
大学内で就職を支援するグローバルキャリアデザインセンターには、関東、甲信越、東海、近畿など県外様々なエリアの就職に関する資料が置かれている。

広島大学 キャリア支援グループ・渡部淳グループリーダー:
広島県内で就職するのは入学してきた学生と同じ約3割。傾向としては公務員が多いです

過去9年分の卒業生の就職先を見ると、2018年度から中国地区(広島含む5県)に関東地区(1都6県)が並ぶようになり、2023年春の卒業生では関東地区「33.3%」が中国地区「29.6%」を追い抜いた。

(Q:県外の企業を受けることに学生が積極的?)
広島大学 キャリア支援グループ・渡部淳グループリーダー:
例えば、交通費などの面から東京の企業は2社までと決めていた学生が、面接などがオンラインになり何社も受けられるようになった。多くは大手志向です。自分でチャレンジすることが許される企業にいきたいという傾向があります

オンラインの普及によって、以前より東京や大阪の企業を受験しやすくなった。最近ではキャリアチェンジ(転職)を念頭において就職活動をする学生もいるという。

約7割は県外出身の学生が通う広島大学
約7割は県外出身の学生が通う広島大学

(Q:転出超過に感じることは?)
広島大学 キャリア支援グループ・渡部淳グループリーダー:
優秀な人が多いんだと正直、思います。大都会で挑戦してみたいという人が多くなるのは無理もない。挑戦できる能力があると、私はそうみています

県内就職率が高い大学にも変化

続いて、広島修道大学。学生の約75%が県内出身で、その他は中四国など近県から入学する。

就職希望者は年間約1,300人。その約半数が県内に本社を置く企業に就職している。ところが、県内就職率の高いこの大学でも、近年、変化が起こっている。

広島修道大学 キャリアセンター・木村太祐課長:
過去5年を見ると、広島県本社の企業に就職する学生が8%ほど(約100人)減っています

転出超過が続く状況に、キャリアセンターは違和感も感じている。

広島修道大学 キャリアセンター・木村太祐課長:
広島県内に就職したいという学生が多い。あれだけ県内がいいという学生がいる中で、転出が多いのはなぜだろうと不思議なところではあります

その上で、転出が起こる理由をこう推測する。

広島修道大学 キャリアセンター・木村太祐課長:
現在は社会的な不安が多い中で情報があふれています。就職活動では「自分が知っている企業」「聞いたことがある企業」をまずピックアップする。次にその企業に対する評価を見る。そこに広島の企業、特に中小企業いわゆる地域企業がどれだけ入ってくるかはかなり難しい

大学の魅力向上など県内に残る工夫を

最後に訪問したのは、学生の6割が県内出身、それ以外の学生も中国地方出身が多くを占める広島経済大学。

3年生後期に学生全員と面談した結果、この大学でも就職希望は“地元志向”が強いという。
しかし、広島県本社の企業への就職率は2022年に49.8%だったのに対し、2023年は45.2%と減少。一方、東京本社の企業への就職率は2022年13.9%から2023年16.8%に増えている。

広島経済大学 キャリアセンター・友松修センター長:
ここ数年、人手不足が激しいので、東京の企業が広島まで来て地元の学生を採用をしたいという声をよく聞きます。実際、企業も来られるようになりました

地元企業にとってはライバルが増えた。求人は近年“爆発的”に増え、対象学生数の10倍以上に上るという。そんな中、キャリアセンターは転出超過を抑えるためにこう考えている。

広島経済大学 キャリアセンター・友松修センター長:
大学自体が若者に魅力がないと判断されているのかもしれない。広島の大学全体が魅力ある教育や活動をしていかないといけないと思う。Uターンで帰ってくる率が高ければいいが、そんなに高くない。進学で出ていくよりも地元に残るような工夫・施策がいると感じています

「広島の企業を知る機会が少ない」

一方、あと2カ月ほどで卒業を迎える大学4年生は転出超過の問題をどう感じているのだろう。

東京の企業に就職する学生:
先輩から、広島の企業にファーストキャリアでついても転勤して県外に出る事例が多いと聞く。転出超過に感じることは、「結局、転勤で出るなら県外に視野を広げてもいいや」と学生の視点が変わったのかなと

東京の企業に就職する学生:
関東や関西の企業を知る機会が多かった。私が大学4年間生活していた中で広島の企業を知る機会が少なかったからこそ、広島で探すのではなくて県外で探す方が多くなったと思います

広島県内の企業に就職する学生:
最新のはやりが地方ではなく東京・大阪に集中するので、僕ら若い世代は東京や大阪一点で見てしまっているのかなと

(Q:県外に進学した学生が広島に戻って就職する話は?)
愛知の企業に就職する学生:
あまり聞かない。東京や大阪に進学した友人はそっちで就職したり、大阪の大学に行って東京に就職する人が多いですね

春には大学を卒業する4年生
春には大学を卒業する4年生

広島県内の企業に就職する学生:
私の考えですが、広島から進学や就職で出ていくのはしょうがないと思っています。出ていった人みんなが最終的に広島へ戻ってきてくれればいいんじゃないかなと思います

20代女性の転出最多 出生数激減か

今回の人口動態調査の結果について、専門家は、2018年に県内に大きな被害をもたらした「西日本豪雨災害」が関係しているという。災害で被災した企業が採用を控えた結果、県外に就職する学生が一時的に増えたことが転出超過を加速させたと指摘する。

2018年の「西日本豪雨災害」が転出超過に影響か
2018年の「西日本豪雨災害」が転出超過に影響か

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さん:
災害後、大幅な転出が起こっています。東京や大阪に出ている先輩たちから情報を得て、災害をきっかけに県外の雇用の風を知ってしまった

さらに、専門家は転出超過の“女性の年齢層”に注目。独自の調査をもとに、今後、この傾向が続けば、次のような危険性があると警鐘を鳴らす。

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さん:
2023年1月から11月までに女性5,344人が減っています。中でも20代前半の女性が圧倒的に多く、2,365人。10代後半が500人弱。結婚転出と思われる20代後半の女性が約1,100人。若い女性を中心に大転出させている。このような偏った減り方が続けば、出生数が激減するのは目に見えています

SNS調査で「県外に住みたい」58%

TSSの番組が独自に行ったSNS調査の結果によると、「Q.広島県外に住みたいと思ったことはありますか?」という問いに1,087人が回答し、「はい」と答えた人が58%、「いいえ」と答えた人が42%となった。
コメントには、「娯楽や遊びに行ける場所が少ない」「県内にいるとめっちゃ出たくなる。県外にいるとめっちゃ帰りたくなる。それが広島」「全国的には中途半端で地味だけど、そのちょうど良さが住みやすい」などの声が寄せられた。

番組の中西キャスターは広島出身。東京へ進学し、地元へUターンしている。

中西敦子キャスター:
私の友人もほとんど県外で就職していて、地元に戻ってきたのに地元の友人が全くいないという状況になっています。出ていった人からは「正直、広島に戻りたい。親元で働きたい」という声をよく聞きます。しかし、東京の方が給与が良いなどの理由で戻れない人がすごく多いと感じています

広島から県外へ出ようとする若者たちはどのような思いを持っているのか。就職活動中の学生に話を聞いた。

広島出身・県内の大学に通う3年生:
大阪に行きたいです。大阪のガヤガヤ感、フレンドリー感、空気感が好きで…。20代は何でも行動できると思うし元気があるので、20代のうちにやりたいことをしたい

広島出身・福岡の大学に通う3年生:
選択肢の一つにもちろん広島もありますが、福岡の方が企業数は圧倒的に多いので悩んでいます。仕事で選ぶ、住みやすさで選ぶって考えると、何でもそろうのは福岡かなと

若者たちのリアルな声、これが現実だ。しかし人口は都市の体力を物語っている。転出超過の問題を深刻に受け止め、これ以上「連続ワースト記録」を更新しないよう対策が急がれる。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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