厚生労働省は建築や工業、調理など各分野で卓越した技能を持つ全国の142人を「現代の名工」に選んだと発表しました。長野県内からは3人。このうち松本市の「表具師」山下誠さんは国宝・旧開智学校の天井の張替えを担うなど高い技術と経験が評価されました。
素早い手つきで和紙に均一に「のり」を広げ、水墨画の裏側にまっすぐ、皺なく、貼り付けます。
作品を美しく仕上げる「裏打ち」の作業。手がけるのは、松本市の表具師・山下誠さん(63)です。
高い技術と経験が評価され、2025年度の「現代の名工」に選ばれました。
山下表具店 表具師・山下誠さん:
「選ばれるか選ばれないかはともかく、推薦していただけるという話だけでうれしかった。みんなに認めてもらえたのかなというのがうれしかった」
山下さんはこの道40年。高校卒業後、上田市で修業し、実家の「山下表具店」の3代目となりました。
山下さん:
「裂(布)もいろいろ種類があって、色とか柄とか。それも表具屋さんの仕事で全部合わせていく」
「表具師」はふすまや障子の張り替えの他、掛け軸や屏風の仕立てなど幅広い仕事を手掛けます。
技術力に加え、作品と調和する装飾を選び、魅力を引き出すセンスも重要です。
山下表具店 表具師・山下誠さん:
「お客さんのニーズに合わせてセンスが合えば喜ばれるし、僕のセンスが悪ければ『もういいや』と。やっぱり、お客さんに喜んでもらうのが一番、魅力的」
1997年には表具師の技能グランプリに出場し、全国優勝を果たしたこともある山下さん。
その腕を評価され、2005年、旧開智学校の改修工事の仕事が舞い込んできました。天井の張り替えを依頼され県内の表具師、約10人と共に3カ月かけて完成させました。
山下さん:
「大変だったです。3か月ぐらい、ほかの仕事を断って仕事に集中していた」
その後、2019年、旧開智学校は国宝に。山下さん2024年の耐震工事でも一部の天井の張り替え作業を任されました。
山下さん:
「なかなかできる仕事ではないんですけど、分からないことも皆さんの協力があったから何とか納めることができた」
今でも現役の山下さんですが、近年は後進の育成にも力を入れています。県内の小中学校・高校に出向き、和紙や糊を使って表具師の体験教室も開いています。
県表具経師内装協会によりますと、現在、県内の表具師は50人。約200人だった30年前に比べると4分の1に減少しています。
山下さん:
「今までの人生で同業者からの指導とか、いろいろ相談に乗ってもらった。そのお返しではないけれど、今まで得たものをこれからの人たちに伝えていかなきゃな」
文化財や芸術を守る「表具師」。山下さんは自らもさらに腕を磨いていきたいと話しています。
山下さん:
「日々が勉強なので、これでいいという結論までは達していないので、頑張っていきたい」