“究極の普通”「ちゃん系」誕生秘話
店員:
中華そばでございます。熱いので気をつけて下さい。

客:
ズズッ…(すする)めっちゃうまい。
取材班:
かなりたくさんの人が並んでいますね。

どこか懐かしいのに、新しいラーメン。それは、 多くの店名に「ちゃん」がつくことから、「ちゃん系ラーメン」と呼ばれる店の数々。

厳しいラーメン不況の中、2020年の創業からわずか5年間で28店舗にまで拡大を続けている。


スープは、チャーシューとなる豚肉を炊いたゆで汁を醤油だれで仕上げたシンプルなものにふわっとした食感の平打ち麺という、ごく普通なもの。

強いて言えば、そこにタレがしみこんだチャーシューを麺が隠れるくらい、たっぷりとのせるのが特長だろうか?
一見普通のラーメンのように見えるが、客の反応は…
60代客:
他のラーメンとはちょっと違った味なんで。
80代客:
全然違う。
9歳客:
いつもの(ラーメン)とは違う感じ。
なぜか、子供からお年寄りまでが夢中になっている。
82歳客:
他の店はあんまり食べることないけど、ここはよう来ます。
だが、この時、私たちは、まだ知らなかった…実は、このラーメンには、彼らが1000軒はくだらない老舗の食べ歩きから学んだ“王道ラーメンの神髄”が隠されていたことを。

「ちゃん系」店主A :(再現)
スープはなみなみ!!
「ちゃん系」店主 B :(再現)
チャーシューは切り立てで!
「ちゃん系」店主C:(再現)
麺はスルスルと!
ちゃん系成功のヒントは勉強会
ちゃん系ラーメン成功の秘密は何なのか? しかし、取材交渉は、「先入観なく味を楽しんで欲しい」という理由から難航が続いた。
が、ただひとつ、ヒントとして取材を許されたのが…
「ちゃんのれん組合」大曽根悠二郎さん:
すみません。大変お待たせしました。
「ちゃん系ラーメン」の店長やスタッフたちが月に1回おこなっているという「勉強会」への同行だった。
小滝橋クマちゃんラーメン店長:
おはようございます。
新宿ナギチャンラーメン店長:
おはようございます!すみません。
新宿シンちゃんラーメン店長:
よろしくお願いします。
この日の目的地は、群馬だった。
取材班:
あ、(車が)止まりますね。ここか…

一体、何の勉強会なのか。
「ちゃんのれん組合」大曽根悠二郎さん:
我々が目指した中華そばの再興というところで、昔から、老舗をメインに地方に根付いているラーメンを食べ歩く「食べ歩き会」毎月やってるんです。

なんと、超老舗の食べ歩き。
「ちゃんのれん組合」大曽根悠二郎さん:
先生である田中さんです。
食べ歩き指南役は意外な人物
その指南役は意外な人物だった。
「サニーデイ・サービス」田中貴さん:
さっき説明したとおり、ここは魚介のスープに、ごま油、自家製麺…

ライブのかたわら、各地のラーメン店を食べ歩き、この世界では知る人ぞ知る存在となったロックバンド「サニーデイ・サービス」の田中貴氏だ。
ちなみに、この日の1軒目は戦後の闇市から始まったという群馬県の老舗「見晴亭藤岡店」。

食べ歩き参加者:
すごいおいしい
2軒目は…
食べ歩き参加者:
なみなみだ。すごい

最後は栃木まで足を伸ばすと、これまた、創業42年という佐野ラーメンの老舗「大童ラーメン城内店」へ。
大童ラーメン店員:
「ちゃーしゅーめん」です。

もちろん、勉強会の面々は、厨房の様子を熱心に見ている。
小滝橋クマちゃんラーメン店長:
今あそこで焼き目つけてますよ。タレにつけながら焼いてを繰り返していて、スープにもこげが浮いているんですよ。ちょっと香ばしくなっていて…
と、この時、私たちは気がついた!! 彼らが、今日、回った3軒は、全部「ちゃん系」のラーメンに、よく似てはいないか…?

そう言えば、食べ歩き会の朝の挨拶でも強調されていたのが…
「ちゃんのれん組合」大曽根悠二郎さん:
我々が目指した中華そばの再興というところで…
そう、彼らは、これまで回った1000軒以上の「老舗ラーメン店」から長年、客から愛され続ける「黄金の方程式」を探していたのだ。
と、ここまで理解すると、ちゃん系ラーメン開発者の一人であるX氏が顔も名前も出さないという条件で開発の裏舞台を話してくれることになった。
X氏自身も、かつては、あの食べ歩きに参加していた別の店の店長だったと言う。
ちゃん系ラーメン立ち上げのキッカケを聞くと…
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:
コロナの時に、例に漏れずといいますか、とても厳しい状況だったので、食べるために生きていくためにっていうところを必死に考えていた。

驚いたことに、きっかけは初めての緊急事態宣言が出され、街から人が消えたコロナ禍の頃だという。
元々、かなり尖った味で人気だったX氏の店。しかし…
A氏:(再現)
このままだと黙って倒産を待つだけだし、思い切って新しい店を出そう。今度は、とがったものじゃなく、毎日食べたくなる王道の中華そばの店だ。
X氏:(再現)
ただでさえ客が来ないのに、普通の中華そばで大丈夫なんですか?
A氏:(再現)
いいや、ただの中華そばじゃない。俺たちが好きな店の、好きなところを凝縮したような“新しい中華そば”だ。
それこそが、食べ歩いた老舗たち共通の数十年、100年食べても飽きない味だった。

先生役だった田中氏が、当時彼らが参考にしたいくつかの老舗を教えてくれるという。
その一つが、創業79年という「浅草橋大勝軒」。

「サニーデイ・サービス」田中貴さん:
うまいっすね。
まず、解説してくれたのは…
「サニーデイ・サービス」田中貴さん:
ラーメンって今、現代的なラーメンって、すごい素材にこだわって、今まで使わなかったような素材とかを使うじゃないですか。

そう、確かに、いま人気の行列店は「桃」「比内地鶏のスープ」「貝出汁」など、材料をとことん吟味しこれまでにない食材や技法を駆使したものがほとんどだ。
「サニーデイ・サービス」田中貴さん:
それはそれで今のはやりで、いろいろ進化しているラーメンですごくいいことだと思うんですけど、こういうシンプルなラーメンで、普通の食材をちゃんと丁寧に作ったら、こんなにおいしくなるんだっていう…
言われてみれば、浅草橋大勝軒のラーメンは決して特別な食材は使わず、終戦直後から変わらぬ素朴なラーメンだけで79年の荒波を生き抜いてきた。
浅草橋大勝軒の客:
おいしくて、もう10年くらい。10年以上来てるかな。
創業1953年大阪の「光洋軒」、創業1947年広島・呉市の「モリス」、創業1972年京都の「ラーメン藤」など、こうした店のエッセンスを凝縮し…
「サニーデイ・サービス」田中貴さん:
全国の古いお店、昔から人気のある国宝みたいな店、そういう古いお店のいいところを、じゃあおいしいの共通点ってなんだろうっていう…

例えば、その一つがスープだった。
老舗のスープは、特別な具材を使わないシンプルなものが多いのに、なぜおいしいと感じるのだろうか。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:(再現)
どうしてあんなにおいしくなるんでしょう?
B氏:(再現)
どうしてだろうなぁ。
と、そこに…
先輩:(再現)
それは炊きたてだからだろ。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:(再現)
先輩!
一人の重鎮が、こんなアドバイスをくれたという。
先輩:(再現)
炊きたてのスープは驚くほどうまい。君たちも、あの店に行っただろう?
「サニーデイ・サービス」田中貴さん:
(京都の)第一旭とかの、そういう良さを、実際、食べ歩いた中で取り入れているんですよ。

京都で創業78年となった今も行列の絶えない老舗「第一旭本店」。そのスープの特徴は…

「本家第一旭本店」山奥弘之店長 :
常に、もういうたら肉を炊いてる状態なんです。次から次へと。

これが、作り置きとは全く違い…
「本家第一旭本店」山奥弘之店長:
常に炊くんで、脂がフレッシュなんですよ。たぶんそれが決め手やと思うんですけど。酸化したりするので。脂も置いといたら。
ポイント「スープの量はなみなみ」
さらに、もうひとつのポイントがスープの量。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:
なみなみって、やっぱりスープの温度、量を入れることで冷めにくいっていうのが、分かったんですよね。たぶん、一般のラーメン屋さんは、大体どんぶり8割ぐらいだと思うんですけど、うちでいうと、たぶん1.2倍ぐらいは入れてると思うんですけど…

まさに、先ほどの「第一旭」でも同じことを言っていた。
「本家第一旭本店」山奥弘之店長:
(スープは)なみなみ入ってるんですけど、ぬるかったら嫌じゃないですか…
スープはどんぶりの淵まで、なみなみとたっぷり…まさに「ちゃん系」にも活かされた鉄則だ。
ポイント「チャーシューは切り立て」
さらに、ちゃん系の代名詞とも言えるチャーシューでこだわったのが切り置きしないこと。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:(再現)
チャーシューがうまい店ってなんなんですかね?
B氏:(再現)
うーん、そうだなぁ。あまり切り置きしてるのを見たことないなぁ。
A 氏:(再現)
それだ!
実はその光景、私たち取材班も栃木の「大童」で目撃していた。
オーブンで焼いたチャーシューを麺をゆでている間にカットし、切り立てのチャーシューをのせて提供する。

もし、これを切り置きしてしまうとどうなるのか。

ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:
チャーシューが酸化してしまうというか、肉の嫌な臭いが時間が経つと出るんですけど、切りたてにすることで肉本来の味が出せる。
ポイント「フワフワ麺の開発」
さらに拘ったのが、それらを支えるフワフワの麺だった。
開発を依頼された新宿だるま製麺の武田将人氏は現代のニーズとは逆の発注に戸惑ったという。
新宿だるま製麺・武田将人氏:
日常食として、今日食べても、また明日食べたくなるラーメンを作りたいから、密度がない、ふわふわ、白米のような麺を作ってくれっていう依頼でした。

そう、現在、定番の人気麺の一つはワシワシと噛みしめる、食べ応えある極太麺だ。
ところが、ちゃん系が目指したのは、創業58年の老舗から受け継いだ味を守る「らぁめん ほりうち新宿本店」のような麺だったという。

「らぁめん ほりうち新宿本店」田村芳章店長:
つるつるって、もちもちっとさせた麺を使っていまして、麺を主食に、おかずとお味噌汁みたいなイメージで、メンマ、ほうれん草、のりとかを食べながら、スープも飲みながら、最後まで飽きないように食べていただける麺なのかなと思っています。

武田氏は、そんな「食べ飽きない麺」を作るため…
新宿だるま製麺・武田将人氏:
試作回数でいうと、200回~230回くらい。
こうして、完成したのが作りたて、熱々のスープがなみなみで、切り立てのチャーシューがどっさり。その下から、「フワッと麺」が顔を出す、至って「普通」のラーメンだ。
普通でシンプルなラーメンだが…
その、あまりのシンプルさに当初、試食したメンバーは…
ちゃん系ラーメンを試食した創業メンバー:
あまりにも今のラーメンとかけ離れてたので、本当にコロナ禍で、まさかこのラーメンでいくとは思わなかったですね。

ところが、一口、口にすると衝撃が走る。
ちゃん系ラーメンを試食した創業メンバー:
見た時は、何の変哲もないラーメン。ただ一番おいしかったです。工程的にすごい簡単なんですけど。すごいおいしかったの覚えています。もう衝撃的でした。

その1号店は、創業メンバーの家族の名前からとったという「神田ちえちゃんラーメン」だった。

X氏は、オープン初日に現れた、ある客の言葉が忘れられないという。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:
たまたま入ってきて下さった方が、近所に勤めている方だったんですけど、60代くらいの方で。
60代客:(再現)
ごちそうさま。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:(再現)
ありがとうございました。
それは、ごく当たり前の会話だったが…
60代客:(再現)
とっても、おいしかった。今度仲間を連れてくるよ。
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:(再現)
ありがとうございました!
ちゃん系ラーメン開発に関わったX氏:
シンプルですけど、「おいしかった」って言ってもらったときは、始めてよかったなって。その方々が、今まで1人で来ていたのが、2人連れて来ていただいたりとか、3人連れてきていただいたりとか。
多くの老舗から学んだ「黄金の方程式」
こうして、客が客を呼び、コロナ禍を生き延びたちゃん系ラーメン。
あの日、多くの老舗からインスパイアされた「黄金の方程式」は今でも厳格に守られることで、多くの客を虜にしていた。

店長:
4つ、チャーシューの切り置きは絶対禁止。
店員:
4つ、チャーシューの切り置きは絶対禁止。
店長:
5つ、スープはなみなみ。
店員:
5つ、スープはなみなみ。
こうして作られたラーメンは…
男性客:
週に2~3回来ても、全然飽きない味。
女性客:
やっぱチャーシューがうまくて。
男性客:
なみなみに入ってるところですね
女性客:
あつあつですね
今日も、多くの客の「心」と「胃袋」を満足させている。
(「Mr.サンデー」11月9日放送より)
