11月6日、名古屋市内2カ所の病院で、賃上げを求めるストライキが行われました。物価高が続く中、診療報酬の伸びが追いつかず、全国の病院のおよそ7割が赤字とも言われています。今後の医療がどうあるべきなのか、病院経営に詳しい専門家に話を聞きました。
■追いつかない賃上げ…名古屋の病院でストライキ
6日午前、名古屋の協立総合病院と名南病院の前で行われたストライキ。組合が病院側に求めたのが「賃上げです」。

看護師:
「『頑張って頑張って働いてください』と言うだけじゃなくて、ねぎらいが見えるような賃上げを少しでも(求めたい)」
物価高が続く中、追い付いていない「賃上げ」。病院の苦境については、5日の国会でも…。
高市早苗首相:
「赤字に苦しむ医療機関などを支援するため、『診療報酬』などに、賃上げ・物価高を適切に反映させる」

「診療報酬」とは、病院が診療行為を行った際に得られる対価です。厚労省が定めた価格表によるため、それぞれの病院で自由に決めることはできません。
この診療報酬が物価高などを反映しきれていないとして、高市首相は2026年度に予定されている改定を待たずに、2025年度内に補正予算を組んで病院を支援する意向を表明しました。
■全国の病院の約7割が赤字に…その実態は
岐阜県白川町の唯一の病院「白川病院」。高齢化が進む中、無料送迎バスを運行し、現在3代目の院長が経営しています。2024年は、1億2000万円の赤字でした。

野尻基院長:
「非常に厳しい状況です。経常利益、営業利益、ともに赤字の状況です。患者数が少ない。もう1つは、診療報酬が物価上昇に合っていない」
町の人口が30年で半減したことに加えて、経営を苦しめているのが診療報酬です。病院の収入のほとんどを占める診療報酬ですが、2024年の引き上げ率は0.88%と頭打ち。
そこから医療機械の購入費用、光熱費、人件費などを引いた分が病院の利益ですが、いずれも増加し、物価高騰を賄えるものではないとしています。

野尻基院長:
「(診療報酬を)できれば10%程度上げていただかないと、どこも厳しい状況だと思います」
一方で、診療報酬の財源は「3割の自己負担と7割の保険料負担」、単純な引き上げは国民負担の増加につながります。
片山さつき財務相:
「経済再生と財政健全化の両立を図っていく必要がございます」
こうした中、5日に開かれた財務大臣の諮問機関による分科会。出席した委員から、2026年度の診療報酬改定では、大規模な病院に比べて利益率が高い診療所の報酬の「引き下げ」が提言されました。

財政制度分科会の増田寛也会長代理:
「財源に限りがある以上、医療の中でメリハリをつけることは当然」
社会保障、日本の医療はどうあるべきか。病院経営に詳しい、城西大学の伊関友伸教授に話を聞きました。

城西大学の伊関友伸教授:
「できるだけ近い所で治療を受けられるというのは、日本の開業医の制度の一つのメリットなので、そこを単純に悪だと決めつけて、削ればいいという話ではないと思います。非効率だとか、もうかっているとか、そういうのじゃなくて、複雑な体制の中で持続可能に医療を国民が受けられるためにはどうしたらいいのかという議論をすることが必要だと思います」
■「看護師辞めて民間企業に…」という例も
日本病院会によりますと、2024年度、全国の病院のおよそ7割が赤字となりました。その理由について、病院経営にくわしい伊関教授に聞きました。

大きな理由の1つが『診療報酬の抑制』です。病院の収入のほとんどを占める診療報酬は2年に1度改定され、2024年は0.88%引き上げられはしました。しかし、伊関教授によると「今の診療報酬は、病院運営を続けるにはあまりに低すぎる」ということです。
近年、病院経営を圧迫しているもう1つの大きな理由が『人件費の高騰』です。人件費は病院経費の5割あまりを占めています。
伊関教授によると、最近では「“民間企業の方が給料がいい”と、看護師を辞めてしまう例も多くある」とのことです。人材獲得のためには一定の給料を出さなければならず、「支出」が膨らむものの、「収入」は足りていないという実情のようです。
