人口減少が加速するなか、建設業や介護現場など様々な業種で人手不足が深刻化している。各企業や業界の対応策をシリーズでお伝えする本企画。今回は県内で最も人手が不足している業界の一つ、建設業に焦点を当てる。

激化する人材獲得競争

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富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科の呉修一教授は、建設業での人材獲得競争の激化を指摘する。

「建設会社全体で人手不足になっている。大手企業が地方、公立大学にまで求人活動できてくれるという時代。県内の企業にとっては厳しい状況」と呉教授は語る。

呉教授の研究室に所属する学生の多くは建設関連の会社に就職するが、県内に残るのは卒業生の3分の1ほど。今年度は所属する6人の学生の中に県内への就職希望者は一人もいないという現状だ。

修士1年の中尾朔也さんは「富山県外というか大きな企業に行きたいと思っているので地域を限定してというわけではなくいろんなところに行ければ」と話す。学部4年生の羽田航大さんも「スケールの大きいことがしたいと考えている。県外の企業の方がスケールの大きいものが多い選択肢が多く県外で考えている」と語る。

今年9月時点での県内建設関連の求人数は2421。これに対し、求職者はわずか225人。企業が求める人手に対し、それを望む人の数が圧倒的に不足している状況だ。

VRで現場体験、メタバースを採用に活用

このような状況のなか、人材確保に向けた対策に乗り出している県内企業がある。黒部市の大高建設だ。

河川の砂防堰堤の建設工事を手掛けるこの会社では、実際に施工した建設現場を仮想現実(VR)で再現し、就職説明会などで活用している。

DX事業部の山本健太郎課長代理は「多分こんな取り組みしているところない。全国的にみても珍しい」と胸を張る。

「実際に黒部奥山の建設現場で黒薙という現場がある。現場を仮想空間上にモデリングして配置した空間。遠隔地の方が実際に現場に行ったような感覚になって建設のことを知ってもらいたいという思いで採用にメタバースを採り入れた」と山本氏。

この取り組みは学生からも好評だという。「若い子たちはゲーム世代、スマホを中心としたゲームの感覚に優れている。実際に就職しようと思った際に重機を動かすといったことや新しい知見の中で自分もやってみようというきっかけになれば」と期待を寄せる。

大高建設の大橋賢生専務は「(建設業には)前時代的なイメージがいまだにあるのかなと。例えばメタバースやAI、施工はICT、無人化施工の最新技術を使うことで建設業ってこんなに進んでいると思ってもらえるようなチャレンジをすることを心がけている」と語る。

クライマー採用で人手不足解消

一方、一風変わった採用で人手不足の解消に乗り出している企業もある。富山市の平野電業だ。送電線の建設工事を手掛けるこの会社では、時には100mを超えるような高所での作業が伴うため、人材確保に苦労してきた。

そこで始めたのが自社で運営するボルダリング施設をいかした「クライマー採用」である。

平野誉士社長は「北信越で一番大きなクライミングの施設。本業の送電線の建設工事の作業員にクライマーが入ってくれないかと思って始めた」と狙いを説明する。

社員になれば施設を無料で使用できるという福利厚生を設けたところ、この5年で30人の採用に成功。そのうちの7割がクライマーだという。

「逆転の発想というか当たり前のことをやってもなかなか(人材を)採れなかったので発想を変えていかないと来てくれないというところで始めてみた」と平野社長。

静岡県出身の大隅颯馬さんは、地元の高校を卒業後、昨年4月にこの会社に入社した一人だ。「クライミングをやっているなら施設がタダになるのは…。桜ヶ池の施設とレトラスが無料になるのはでかい。気づいたら富山にいた感じ」と笑顔で話す。

奇策ともいえるクライマー採用。発想の転換が功を奏している。平野社長は「人はまだまだ足りないので、どんどんきてほしい」と期待を込める。

(富山テレビ放送)

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