「あの日々は地獄でした。気持ちは死んでいました…。話したりするときは明るかったりしますけど、気持ちは死んでいました」

アイスダンスでの新たな挑戦へ

そんな紀平に再び巡ってきたオリンピックシーズン。復帰へ向けてジャンプ練習を再開し、「今年笑顔一杯のいい年になりますように」と23歳の抱負を掲げていた。

誕生日のお祝いを受けて23歳の抱負を語っていた紀平
誕生日のお祝いを受けて23歳の抱負を語っていた紀平

しかし2カ月後の9月16日、紀平は全日本選手権の予選会の欠場を発表。2021年にケガを負った右足首は完治に至っていなかったという。

この決断は、ミラノ・コルティナ五輪のシングルでの出場をあきらめることを意味していた。

しかし、SNSで発表された文章には、「今は新たな挑戦に向けても前向きに取り組んでいます」という言葉で締められていた。その意味がわかったのが、この発表から2週間後だった。

9月29日、紀平はアイスダンスに挑戦することを発表。アイスダンスは“氷上の社交ダンス”と呼ばれる競技で、シングルと違ってジャンプの要素はなく、足への負担は軽減される。

演技を合わせる練習をする紀平と西山
演技を合わせる練習をする紀平と西山

2人が練習に励んでいたのは、カナダにある「アイス・アカデミー・オブ・モントリオール」。

世界選手権3連覇中のマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組を筆頭に数々のトップアイスダンサーが所属する名門クラブだ。

近年ではそのアイスダンスのノウハウをスケーティングに活かそうと、坂本花織や“りくりゅう”こと三浦璃来・木原龍一組ら日本のトップスケーターたちも足を運んでいる。

そして紀平のパートナーとなった西山は、アイスダンス歴6年目で、前回の全日本選手権で2位になっている。西山がリードしながら、通常では考えられないようなペースでカップルとしてのコンビネーションを高めていた。

紀平の成長に圧倒される西山ら

紀平がアイスダンスとの相性の良さを見せたひとつが、アイスダンス特有の要素、男性が女性を持ち上げる「リフト」だ。