バイクでの配達中に事故を起こした配達員に対し、罰として自転車での配達を強制する「懲罰自転車」。日本郵便で長年にわたって行われてきたことが明らかになった。
実際に懲罰を受けた配達員や、懲罰を与える立場にあった管理職が関西テレビ「newsランナー」の取材に応じ、その実態を告白した。
■「もう絶対許さない。この会社の上の連中は人じゃない」東京都内の郵便局で働く配達員
東京都内の郵便局で働く男性配達員は、インタビューで強い憤りをあらわにしました。
【東京都内の郵便局で働く配達員】「もう絶対許さないぞという思いになりました。この会社の上の連中は人じゃないなと思ったので、必ず何か、痛い目に遭わせたいなというのが本音です」
男性が怒りを向けるのは、バイクでの配達中に事故を起こした配達員に対し、懲罰として自転車での配達を強制する「懲罰自転車」と呼ばれる慣行です。
【東京都内の郵便局で働く配達員】「(懲罰自転車は)見せしめですね。事故を起こすとこんなひどい目に遭うから、みんな気をつけようねという。あんな自転車を漕いだってバイクの運転なんて上手くならないですし。何のためにやってるのかといったら懲らしめるためと」
この懲罰自転車は男性が働き始めた10年近く前からすでに行われていたといい、男性はこれまでなんとか回避してきました。
しかし今年8月、バイクのサイドスタンドをかけて止めたところ、スタンドの固定が甘く、バイクが倒れてしまいます。倒れた先にあった車のボンネットに、バイクの後部のキャリーボックスが接触する物損事故となりました。
【東京都内の郵便局で働く配達員】「本音を言うと、けがをされてる方もいないし(車に)傷も無かったから、(懲罰は)ないかもしれないな、それだったらいいなと」

■「これはパワハラ。会社・指示した人間は処分受けてほしい」
しかし、事故の翌日に上司から告げられたのは、2週間の「懲罰自転車」だった。
自転車であってもバイクと同じ量の郵便物を配達するのが原則。しかもその時期は、記録的な暑さだったことし8月末からの2週間で、連日、30度を超える真夏日で、想像を絶する過酷さだったという。
東京都内の郵便局で働く配達員:熱中症アラートも発表されていましたし、ものすごい汗をかきましたから、仕事をしながら倒れても全然おかしくないのではという厳しさだったと思いますね。
配達員は「これは私はパワーハラスメントだととても強く思っています」と訴える。
東京都内の郵便局で働く配達員:昔からやっていたから、みんなやってきたから。と拒否できない状況を会社が作りあげていましたが、会社・指示した人間がもう一回改めて考えていただき、これはパワーハラスメントであったと認めて、それ相応の処分を受けてほしいと考えています。
こうした“懲罰自転車”は、全国の郵便局に存在したとみられている。

■懲罰自転車経験の配達員は「バイクと違ってふらふらして、事故をしそう」も「拒否したらクビもあったかなと…」
大阪市内の郵便局で、20年以上配達員として働く男性も“懲罰”を受けた一人だ。
大阪市内の郵便局で働く配達員の男性:(“懲罰自転車”について)間違いなく懲罰だと思う。バイクと違ってフラフラして、そっちの方が事故をしそう。夏になると暑さと、登り坂になると降りて押さないといけない。
男性はこれまでに、物損事故で3度の“懲罰自転車”を経験。長いときは、3カ月に及んだという。
男性は当時、拒否したかったものの、ある理由から受け入れざるをえなかったと話します。
大阪市内の郵便局で働く配達員の男性:僕は正社員じゃないので、拒否したら、クビといいますか、期間がきたら『辞めてね』って言われる。(抵抗したら)雇い止めもあったかなと思う。
多くの配達員が違和感を覚えながらも長らく続いてきた“懲罰自転車”。関係者によると、問題視する声は少なくとも3年前から会社に複数、寄せられていたということだ。

■「バカだなーとずっと思っていた。くだらないことの片棒を担いでる」“懲罰自転車”に加担した管理職が明かす
“懲罰自転車”に加担したという管理職の男性にnewsランナーは、独自取材した。
日本郵便・管理職の男性:熱中症対策でアメを配ったりアイスを配ったり、そんなことをして熱中症にならないように金を使っているのに真夏の懲罰自転車、矛盾しているよね。バカだなーとずっと思っていました。
男性は80人から100人ほどの配達員の勤務管理などを担当するいわゆる“管理職”。業務の中には、“懲罰自転車”に関するものもあった。
(Q:ご自身は懲罰自転車とどういった関わり方を?)
日本郵便・管理職の男性:(郵便局の)局長が決めた“懲罰自転車”に対して、最後、合格かどうかを見てこいと、いうことをやらされました。
男性は、事故を起こした配達員に対し、”懲罰自転車”を続けるかどうかを見極める責任者。懲罰の必要性はないと感じつつも、続ける判断をすることもあったと言う。
日本郵便・管理職の男性:ここで僕が『バイクに戻してもいいと思います』と言って、それで(対象者が)事故を起こしたときに今度、僕の責任が問われるので。かっこいい言い方をすれば、心を鬼にして割り切りました。
(Q:懲罰自転車に加担してしまったことについては)
日本郵便・管理職の男性:罪悪感はないですけど、くだらないことの片棒を担いでいるなっていう思いでしかない。
男性は今後も日本郵便に残ると話していますが、取材の最後にカメラに向かって、こう言い放った。
日本郵便・管理職の男性:あの会社の悪いところとして、世の中の当たり前と自分たちの当たり前にずれがあっても、自分たちの当たり前の方を是とするので。

■「日本郵便」という組織の体質を象徴した問題
コンプライアンス問題などに詳しい専門家は“懲罰自転車”が長年にわたり続いた理由についてこう話す。
企業コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士:これはもう、日本郵便という組織の体質を象徴した問題と言えるのでは。旧態依然とした組織だし、昔ながらのやり方の中であまりちゃんとやってないところも相当たくさん沢山あるだろうなと。この際、徹底的に調べてみようと考えなくてはいけない。
この問題について、「日本郵便」に取材を申し込んだところ、「合理性が認められず、また認識に齟齬が発生することがないよう、懲罰又はハラスメントに受け止められかねない行為については今月14日、禁止する周知を行った」との回答があった。
全国に2万3000以上の郵便局を構える巨大企業「日本郵便」。信頼回復への道のりは、前途多難だ。

■郵政民営化から約20年 「古い体質と無理な目標設定」が背景に
日本郵便を巡っては、懲罰自転車以外にも不祥事が相次いでいる。去年9月にはゆうちょ銀行の顧客情報の不正利用が発覚。今年3月にはアルコールチェックを実施しない不適切点呼問題も明らかになった。
ジャーナリストの鈴木哲夫さんは「これ体罰ですよ。こんなことまだやってんのかっていう話ですよ」と憤り、「郵政民営化」から約20年が経過しても、実質的には何も変わっていない現状を指摘した。
鈴木哲夫さん:民営化、形は民営化だけど、中身がもう何も変わってない。今は、ハガキすら出さない時代になった。世の中のスピードに、この巨大組織がついていけてない。
郷原弁護士によると、「古い体質と無理な目標設定、経営方針の急な変更などが、こうした不祥事が発生する背景にある」との指摘もあった。郵便という公共性の高いサービスを担う企業として、抜本的な改革が求められている。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年10月29日放送)


 
       
         
         
        