2022年に発生した、参議院議員選挙の応援演説中に安倍元総理が銃撃・殺害された事件で殺人などの罪に問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判が28日から始まり、被告は殺害について起訴内容をを認めた。

続いて初公判で行われた冒頭陳述(=証拠によって証明することを説明する手続き)では、検察側、弁護側ともに「山上被告の母親が旧統一教会に入信し、多額の献金をしたことから家族関係がうまくいかなくなった」こと、「兄が自殺したことで教団幹部、そして政治家の襲撃を考えるようになった」ことを指摘した。

だが、弁護側は「生まれ育ってきた環境は児童虐待に当たり、刑の重さを判断する際に、十分に考慮されるべき」と主張。

一方検察側は「教団と母親の間で合意した献金の返金の一部を被告も受け取っていた」と指摘し、「不遇な生い立ちを抱えながらも犯罪に及ばず生きている者も多くいるのであり、刑罰を大きく軽くするものではないと考える」と述べる。

これらの主張を裁判員たちはどう受け止めるのだろうか。

■弁護側指摘「被告の母は“深い苦しみ”の中で旧統一教会に入信」

検察側・弁護側双方の冒頭陳述によると、山上被告の母親が旧統一教会に入信したのは1991年のこと。

弁護側によると、山上被告の家族構成は父親・母親に加え、1歳上の兄、山上被告が生まれて4年半後に生まれた妹の5人家族。入信に至ったきっかけ自体が家族関係によるものだったという。

【弁護側冒頭陳述より】「お父さんは、徹也さんが4歳のときに自ら命を絶ちました。また、徹也さんのお兄さんは、幼いころから頭部の腫瘍が脳を圧迫する病気を抱え、命の危険を医師から指摘される状況でした。

その上お兄さんは事故で片目の視力も失ってしまいます。それらのことによって、お母さんは深い苦しみの中で生きるようになります」

この“深い苦しみ”の中で旧統一教会の信者が自宅を訪ねてきたことがきっかけで入信したという。

母親が入信後、旧統一教会に対して多額の献金をするなどのめりこんでいったことは検察側・弁護側ともに指摘している。

安倍元総理の背後に立つ山上被告(2022年)
安倍元総理の背後に立つ山上被告(2022年)
この記事の画像(6枚)

■弁護側「献金額は1億円」「母親は祖父の財産も処分し献金」

弁護側は献金額などについても述べている。

【弁護側冒頭陳述より】「(山上被告の母親は)統一教会に対して献金をして財産を投げ出すことが息子や家族を救うことだと信じ、すぐに2000万円を献金。

翌年には、徹也さんのお父さんの生命保険金のほとんどすべて3000万円を献金。1991年から1998年ころまでの献金総額は1億円に上ります」

一家は母方の祖父と同居するようになったが、「旧統一教会の活動を生活の中心に据えるようになったことなどから祖父と母親は次第に衝突するようになり、家庭は安息の場ではなくなっていった」(検察側冒頭陳述)という。

さらに弁護側によると山上被告が高校3年のとき、母方の祖父が亡くなると、母親は相続した財産を処分して得た金も献金してしまい、住む家も十分な収入源もなくなったと指摘した。

山上被告の法廷内イラスト(28日)
山上被告の法廷内イラスト(28日)

■自殺り自衛隊辞めた後「教団と献金の一部返金で合意 被告も月約10万円受け取る」

その後、山上被告は1999年に高校を卒業するが、大学進学は断念し、2002年に海上自衛隊に入隊するも2005年には自殺を図って退官している。

自殺の背景について弁護側は「自衛隊の生活になじめず、自分は努力しても報われない、また家族についても自分の力ではどうにもできないという無力感、厭世感が強くなって精神的に追い詰められた」とも指摘している。

一方で検察側はこの自殺を図った後の出来事として、「旧統一教会と母親の間で、献金した額の一部・5000万円を分割返金する合意が成立し、被告も毎月約10万円を受け取っていた」と指摘。

「被告は自分自身が思い描いたような人生を送れていないのは旧統一教会が原因だと考え、恨みを募らせていった」とも述べた。

裁判員たちはどのように受け止めるだろうか。

山上被告
山上被告

■「兄の自殺」きっかけに“襲撃”考えるように 双方が指摘

そしてここから山上被告が事件に至る経緯は、検察側も弁護側もかなり指摘が重なっている。

双方が指摘するのが、2015年に母親が旧統一教会を信仰することに反発していた兄が自殺したことだ。

この時点から、山上被告は教団幹部の襲撃を考えるようになるも、襲撃がうまくいかず銃などの製造を始めた。さらに教団幹部が来日する機会がないことから、安倍元総理が教団の関連団体にメッセージを送ったことを知って狙うようになったとしている。

28日の法廷
28日の法廷

■山上被告の“生い立ち”は刑の重さにどう影響?

この裁判では一部の罪が成立するかどうかの争いはあるものの、「どのような重さの刑を科すべきか」が争われる。

旧統一教会を巡って家庭環境が左右されたと見える山上被告の生い立ち。

それは弁護側が指摘するように「宗教虐待」に当たるなど、「犯行動機、犯行に至る経緯は刑の重さを判断する際に、十分に考慮されるべき」ものなのか。

それとも検察側が指摘するように「被告は長年社会人として生活し、事件当時は40代の社会人として生活する中で、法律を守る意識を十分に持っており、不遇な生い立ちがあったことで犯罪をふみとどまれなかったという関係にもない」というものなのだろうか。

今後の裁判で予定されている母親の証人尋問で何が語られるのか。そして山上被告本人は何を語るのか。

そしてそれらを受け止める裁判員たちの判断はどうなるのだろうか。

30日の法廷での山上被告(イラスト)
30日の法廷での山上被告(イラスト)
関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。