全国の空き家が900万戸を突破し、増加の一途をたどる中、広島県内でも過去最多を更新。老朽化した建物を行政が強制撤去する「行政代執行」が三次市で初めて行われ、深刻な“相続放棄”の実態が浮かび上がった。
倒壊の危険…三次市で初「行政代執行」
「行政代執行を実施し、店舗・居宅および敷地内の残置物の撤去に着手します」
ヘルメットと作業服を着用した三次市職員が、マイクでこう告げる。
10月22日、三次市で空き家の強制撤去が始まった。屋根は剥がれ、外壁の一部も崩れ落ちるなど危険な状態にある建物だ。
行政代執行とは、所有者が適切に管理せず、倒壊の恐れがある空き家を行政が強制的に解体できる制度。国が2015年に施行した「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、県内では2015年に三原市で初めて行われた。
さらに2023年には法改正が行われ、周辺環境への悪影響が懸念される“特定空き家”の増加を抑制するために、行政が指導・勧告できるようになった。
総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は「900万戸」を突破し過去最多。広島県内でも20年間でおよそ6万戸増え、2023年は23万1400戸と過去最多を更新した。うち11万4700戸は使用目的がなく、賃貸や売却の予定もない“放置された空き家”である。
背景にある“相続放棄”と“人口流出”
三次市が行政代執行を行うのは今回が初めて。対象となった空き家の所有者はすでに亡くなっており、相続人が対応しなかったため撤去に着手した。

三次市建設部の濱口勉部長は「本来は所有者が解体するのが原則だが、勧告や命令を行っても対応していただけなかった。安全確保の観点から踏み切った」と説明する。
今回の解体費用は約400万円。市は相続人に請求し、支払われない場合は資産を調査・差し押さえるなどして徴収する方針だ。
空き家増加の要因のひとつが「相続問題」である。
広島県住宅課によると、空き家を相続しても固定資産税や管理の負担が大きく、放置されるケースが後を絶たない。また、都市部への人口流出で管理が行き届かず、危険な状態に陥る空き家も増えている。
老朽化した空き家が地域の景観や安全を脅かす中、行政の対応にも限界がある。高齢化の進む“老いゆく社会”で「誰がどのように空き家を管理し、解体していくのか」――その問いが今、突きつけられている。
(テレビ新広島)
