全国でクマの出没が増え被害が相次ぐ中、広島市安佐南区の住宅で木に登って柿を食べるクマが目撃された。一方で、クマの餌となる柿や栗の木を伐採した住民に補助金を出し、出没が収束に向かっている自治体もある。

「怖くて眠れない」クマにおびえる住民

10月4日の朝、広島市安佐南区八木町の山に面した住宅に体長約1メートルのクマが現れ、庭の柿が食べられる被害があった。現場の柿の木にはクマの鋭い爪あとが残され、住民は恐怖におびえている。

10月4日、住宅の敷地に侵入するクマ(視聴者撮影)
10月4日、住宅の敷地に侵入するクマ(視聴者撮影)
この記事の画像(27枚)

この住宅では10月に入ってクマが度々出没し、25日も同じ被害が起こった。

住民:
クマが出たのは10月初めに3日続けて、25日の夜で4回目

(Q:こんなこと今まであった?)
住民:
ありませんでした

警察によると、25日午後9時すぎ、住民から「クマが庭の柿の木に登って柿を食べている」と警察に110番通報があった。

20分後、警察が現場に駆け付けたが、クマはすでに逃げていてけが人はいなかった。

住民:
怖いからここに住みたくない。夜、眠れない。物音がするとドキッとして起きる。クマがいなくなるか、私がいなくなるか…

庭がクマの餌場に?かじられた無数の柿

さらに、この住宅で27日朝、5回目となる出没が確認された。クマの生態に詳しい広島修道大学の奥田圭准教授と現場を緊急取材。

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
そこまでガリガリの個体ではないので、それほど栄養状態が悪くは見えない

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
この辺がクマが食べた跡じゃないかなと思う

“一口かじっては捨てる”動きを繰り返すクマ。木の枝が折れているのも、よじ登って食べた証拠だ。

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
おそらく人が感知できたのが5回だけであって、ここが餌場として機能してしまっている可能性が高いと思います

敷地内にある養蜂箱にも“手形”のようなものがくっきりと残っていた。

クマの手形が残された養蜂箱
クマの手形が残された養蜂箱

フンに「ドングリがほとんどない」

クマが出没した周辺にはフンが落ちている。そのフンから“山の異変”が見えてきた。

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
ドングリがほとんど入っていないので、山でドングリがほとんど食べられない状態になっているのかなと思います

クマのフンを観察する奥田准教授(右)と五十川記者(左)
クマのフンを観察する奥田准教授(右)と五十川記者(左)

住宅敷地外の道に落ちていたフンも含まれているのは柿の残がいばかり。奥田准教授は「山に食べ物がないとやはり出てきてしまう。柿の木であったり、栗の木であったり、クマの食べ物になるものがあって、それに執着して出てきている」と推測する。

クマが出没した周辺に落ちていたフン
クマが出没した周辺に落ちていたフン

五十川裕明 記者:
クマのフンの形跡を見ますとクマの拠点はすぐそこにあるかもしれません。さらに山の奥に入って、クマの拠点が人里に近づいていないか調査します

奥田准教授は、クマが現れた住宅の近くの山林を分け入っていく。すると、人里の目と鼻の先にクマが日常的に使っているとみられる獣道が複数、確認できた。

山林の獣道を調査する広島修道大学の奥田准教授
山林の獣道を調査する広島修道大学の奥田准教授

さらに…

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
シカの“樹皮はぎ”です。シカが樹皮をはいで食べてしまう

山で起きている異変はクマだけではなかった。至るところに「シカの痕跡」が見つかった。

シカが山の餌を食べ尽くしたか

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
シカの数がかなり多くなっているという印象を受けます。この植物は「マンリョウ」と言って、シカが食べない植物なんですね。シカが食べない植物だけが残っているという状況になってしまっています

周辺を見渡すと「マンリョウ」以外の草はほとんど残っていない。クマが食べる餌までシカが食べ尽くしてしまったことが、人里に下りてくる一因になったと指摘する。

シカの生息範囲も例年とは異なる。2023年8月に撮影された、広島市安佐北区の車道を歩くシカ。車が近づいても避ける様子はない。

周辺の可部地区では住宅街の家庭菜園で今までなかったというシカによる食害も発生した。広島県内のニホンジカの数は2020年度に5万1,399頭と推計されていて、2002年度の1万1,476頭と比べるとその数は5倍近くに膨れ上がっている。

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
「生物間相互作用」と言って、野生動物たちは互いに関係を持ち合いながら共存をしています。おそらく山の中でシカがたくさん増えて山の餌がどんどん消費されている。クマは山の中で食べるものがなくなって、人間の住むエリアに下りてきてしまうということが起きている可能性があります

柿・栗の木伐採で最大2万円の補助金

しかし、人里にクマが姿を現すようになっても劇的に状況を改善できない理由がある。ツキノワグマは環境省から絶滅の恐れのある絶滅危惧種に指定されているため、県が「危険な個体」として許可を出さない限り捕獲することはできないのだ。

これには猟友会のメンバーも危機感を持っている。

安芸高田猟友会 豊平支部・栗末茂雄さん:
保護の対象になっていますが、度合いが看過できない状態になれば駆除と言うか、そろそろ考える時期に入っているのではないかと思います。彼らの陣地の中にわれらがいるのか、われわれの陣地に彼らが入ってきているのかという問題でもあるわけなんですが

一方、広島県内で“クマの出没数が減っている”自治体も。

広島・安芸高田市役所
広島・安芸高田市役所

安芸高田市はクマの餌となる放置状態の柿の木と栗の木を伐採した住民に補助金を出している。伐採1本あたりの補助金は最大2万円。2022年度、合わせて150本が伐採された。

安芸高田市 地域営農課・稲田圭介 課長:
一時に比べて、数は少ないと思います。クマにとって魅力のない地域を作ることによってクマの出没を抑制できればと思っています

安芸高田市以外にも、柿の木と栗の木の伐採に補助金を出す事業は2023年度から安芸太田町で始まった。補助金を支援する県によると、今後、庄原市と北広島町でも導入される予定だ。

広島修道大学 人間環境学部・奥田圭 准教授:
広島県は、広島市内であっても山に囲まれているような状況ですので、将来的にはイノシシもシカもクマも市内まで出てくることが確実に起きてくると思います。これから先、都市部にいろいろな野生動物が出てこないようにするために、どういう街づくり地域づくりをしていけばよいか考えておく必要性があります

広島県と隣接する山口・岩国市でも2023年4月から10月24日までにクマの目撃情報が105件にのぼり、山口県内で最多。27日も小学校近くでクマのフンが見つかるなど警戒が強まっている。人里へ生息範囲を広げるクマ。冬眠前の12月ごろまで活発に動きまわるという。

奥田准教授は「中山間地域の過疎化が進むと今後さらに人里との境界線があいまいになっていく」と警鐘を鳴らす。また対策として、クマの餌となるものを人間が住んでいるところに置かないことが重要だと注意を呼び掛けている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
テレビ新広島

広島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。