「上司が助けてくれない」自衛隊駐屯地でハラスメントか
宮城県内の陸上自衛隊の駐屯地で、上司からセクハラとパワハラを受け精神疾患を発症したとして、30代の男性自衛官が国と上司2人に計1000万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。
訴えは、組織の中で繰り返された暴力と性的行為の強要、そして長年にわたる沈黙の構造を問うものだ。

18歳で入隊、始まった“暴力と屈辱”の日々
訴状などによると、男性は2006年、18歳で陸上自衛隊に入隊。配属直後から約4年半、男性上司2人から業務中や飲み会の場で性的行為や暴行を繰り返し受けたと主張している。
訴えによると、飲み会では上司らが性器を押し当ててきたり、下着を脱がされ同僚の前で下半身を露出させられたりしたと主張している。また、整備工場のクレーンで吊り下げられるなどの暴力を受けたとも訴えている。
訴状にはこう記されている。
「上司A及びBから、暴行及び性的暴行を繰り返し受けた」
Aが異動した後も、もう一人の上司Bによる行為は断続的に続いたという。
やがて、恐怖は時間を超えて尾を引くことになる。

異動先でも逃げられず 再び現れた上司の影
しばらくして男性は異動となった。
ところが、かつての上司Aは頻繁に異動先に顔を出していたという。
「お前、結婚して子供もいるらしいな。ガキがガキを作ってんじゃねえ!」
「楽してんじゃねえ!ふざけやがって」
(訴状より)
男性は首を掴まれ、脇腹を小突かれたという。Aが他の隊員に陰部へライターで火をつけたという噂も耳にした。
男性は再び暴力を受けるのではないかと恐怖を感じ、悪夢を見るようになったと訴えている。
さらに同僚は「今日Aが来てるぞ」と冗談交じりに告げ、男性をからかっていたという。男性はAがいなくても、その影は常に彼を見張っているように感じた。

「お前は仕事していない」職場で続いた嫌がらせ
2021年12月、男性はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した。
その後も職場では嫌がらせが続いたとしている。別の上司は「さぼっているのか」と叱責を繰り返し、パソコンのマウスの線を抜いたり、デスクトップのアイコンを勝手に操作したりしたという。
「仕事していない」「お前は本当に仕事やってない」
歓送迎会の席でそんな言葉を浴び、男性は頭痛や吐き気に襲われた。
翌年、自衛隊病院で「抑うつ状態」「適応障害」と診断され、休務扱いとなった。
そして2024年末、男性はPTSDの発症について公務災害を申請した。
“晒し上げメール”崩れていった信頼
訴状にはさらに、組織の閉鎖性を示す一文がある。
男性が親睦会の脱退を申し出たところ、上司が全隊員宛てにメールを送ったという。
「曹友会脱退済みの某課、某陸曹は自衛隊が嫌い、自衛隊に関わりたくないので親睦会を脱退したいと言っている」
事実上の“晒し上げ”ともみられ、男性は一層、孤立感を深めていった。
「せっかく自衛隊に入ったのに」孤独と訴え
男性は2024年12月に公務災害の認定を申請。現在も審査が続いている。
2025年2月、仙台市内で開いた会見で、震える声でこう訴えた。
「上司が誰も助けてくれない。どうすればいいんだろうという気持ちと、せっかく自衛隊に入ったのになぜこんな目に遭うのか。やめたいと思いながら過ごしていました。ハラスメントの事実を認めて謝罪してほしい」

「訴状が届いていないのでコメントできない」
陸上自衛隊東北方面総監部は「訴状が届いていないのでコメントできない。今後適切に対応する」としている。
自ら自衛官に志願した男性が、なぜこのような主張をせざるを得なかったのか。今後の審理では、組織の体質も焦点の一つとなる見通しだ。

