14年7カ月ぶりの再会です。東日本大震災で行方不明となっていた当時6歳の女の子の遺骨が、10月16日、家族に引き渡されました。
遺骨受け渡し
「当署管内で発見されました、ご遺骨が山根捺星さまと判明しましたので、引き渡し致します。長い間お待たせ致しました」
14年7カ月ぶりとなる、家族との再会。
16日、南三陸警察署で遺族に引き渡されたのは、東日本大震災で行方不明となっていた岩手県山田町の山根捺星さん、当時6歳の遺骨です。
母・千弓さん
「14年経ってやっと手元に戻ってきたという喜びも半分ですけど、この形でという寂しさも半分です」
父・朋紀さん
「うれしいの一言です。やっと家に連れて帰れるなと思って」
両親は、わずか6年で突然の別れを迎えた我が子との思い出を、このように振り返ります。
母・千弓さん
「自閉症もあって手のかかる子でしたけど、いつもにこにこしていたなと思っています。外に出て体動かすのが大好きでした。ネコを見れば、ネコを追いかけて行ったり。手がかかる子ではありましたけど、それでももっと子育てしたかったなという思いが、今改めてたった6年間という娘を育てる短さを改めて感じています。にこにこって、『ママ』って言っているかなと想像しています」
捺星さんは震災当日、祖母と一緒に自宅にいました。避難しようと玄関を開けた時、目にした津波に捺星さんが怯えてしまい自宅に戻ってしまったということです。
母・千弓さん
「震災当日、仕事に行くために、捺星はおばあちゃんに預けて、最後は私に…玄関まで追いかけてきてね。私に『仕事に行くな』って泣いてきたんですよ。それを私は振り切って仕事に行きました。最後は捺星を泣かせてしまったなという、それが本当に捺星の最後です。仕事に行かないで黙って、私も休んで家に居ればよかったという後からの後悔ですけど」
捺星さんの遺骨は、おととし2月、南三陸町にある建設会社が作業中に見つけました。県警が、DNA鑑定や、プロテオーム解析などを進め、捺星さんの下あごの骨の一部であることが分かりました。
父・朋紀さん
「半分もう諦めていたので、電話が来たときは震えが止まらなくて、最初は嘘かと思って、その後、本当に素直に喜んで、そして奥さんに電話して、見つけてくれた人にすごく感謝したいです」
母・千弓さん
「2人で声を上げて、それぞれの電話で大泣きしました。奇跡が起きたってそう思っています。姿は見えないですけど、気持ちはまた4人で生活できるというような、そんな楽しみじゃないですけど、そんな気持ちになっています。おかえりですよね。おかえりというね。頑張ったなという思いですね。帰ってきてくれてありがとうという気持ちでした」
捺星さんは、16日、14年7カ月ぶりに、家族4人で自宅に帰りました。
今回の身元の特定には、プロテオーム解析という手法が活用されました。どのような解析なのか、捜査に関わった専門家に伺いました。
東北大学大学院歯学研究科の鈴木敏彦准教授です。
プロテオームとは細胞内にある全てのタンパク質のことを指し、鈴木准教授は発見された下あごに残っていた、歯のタンパク質のアミノ酸の並び方や、長さなどを詳細に解析することで、性別が女性であることを特定しました。
東北大学大学院歯学研究科 鈴木敏彦准教授
「歯の口の中に出ている部分はエナメル質と呼ばれる非常に硬い物質が表面を覆っている。そのエナメル質の中には、2パーセントぐらい成分としてタンパク質の欠片が入っている。そのタンパク質のかけらを精密な方法を使い分析することで、その歯の持ち主が男性であるか女性であるか、これを判定する方法が、今回用いられたプロテオーム解析」
歯のエナメル質は月日とともに劣化するDNAと異なり、人間の体の中で最も硬く、タンパク質も残りやすいとされています。
プロテオーム解析だけでは個人の特定まではできませんが、身元の性別を判明させたことが、捜査の大きな手がかりとなりました。
東北大学大学院歯学研究科 鈴木敏彦准教授
「最初に男性か女性か、これが分かるだけで、かなり身元特定の前進につながると思う。今までやったことがない方法を活用し、社会に還元していくのが、大学の役割と考えているので、そういう意味でお役に立てて非常に良かったと考えている」
身元特定に携わった、県警の検視官、京野祐也警部です。
県警本部身元不明・行方不明者捜査班長 京野祐也検視官
「時間はかかってしまったが、身元が特定できて安堵している。現在も宮城県警では震災のご遺体として6体の身元不明遺体の捜査を継続している。小さな情報でも寄せていただけたら、身元特定に至る大きなきっかけになる」
東日本大震災の発生からは14年7カ月が経ちました。県内では、1万571人が亡くなり、1215人の行方が今も分かっていません。