重い病気や障がいのため、人工呼吸器の装着やたんの吸引など、医療的ケアが日常的に必要な人がいます。
そうした人たちが災害の時にどうやって避難し、避難先でどうケアするか、家族や地域・行政などさまざまな人が参加して、実践的な訓練が行われました。
宮城県栗原市に住む星奏唱さん(22)。
出生時の低酸素脳症の後遺症で定期的なたんの吸引や人工呼吸器の装着が必要です。
医療機器には電源が必要なため、停電は命に関わります。
星奏唱さんの母親・勝恵さん
「避難しようかなと、避難したらいいかなと思う時はあるんですけど、一人で連れて行くのは大変ですし、電源は使えるのかとか、吸引とか呼吸器とか機械の音がするので躊躇してしまうというか」
母・勝恵さんの不安は多く、災害時の避難にはまだまだ課題があります。
星奏唱さんの母親・勝恵さん
「避難訓練をして行政の方とか地域の方とかに知っててもらって、『奏唱さんだから、こっちの部屋に入れよう』とか、『奏唱さんが来たから、あれを準備しよう』とかって、思ってもらうっていうのは、一番大事かなと思います」
今回の訓練は、大雨で停電したという想定で、奏唱さんが地域の人の助けも借りながらどのように避難するかを確認することが目的です。
実は、医療的ケアが必要な人の実践的な避難訓練は、宮城県内でもほとんど例がありません。
このため、栗原市や自立支援協議会、県などは訓練にあたって何度も会議を重ねました。
栗原市社会福祉課 菅原貴子課長
「災害時には行政が個別に出向くことが難しい状況になりますので、医療的ケアを必要とする人には、ご家族だけでなく、地域全体で避難を考えていただくことが重要と考えております」
2021年、災害対策基本法が改正され、障がい者や高齢者など災害時に手助けが必要な人の避難方法を具体的に決めておく、「個別避難計画」の作成が市町村の努力義務となりました。
しかし、宮城県では、この「個別避難計画」の作成が遅れています。
今年4月の時点で要支援者7万1718人のうち、作成が済んだのは7967人・11.1%に留まっています。
また県内の医療的ケア児者のうち、計画を作成できているのは42人=5.3%とさらに低い水準です。
今回の訓練について、県の支援機関の遠山センター長は、「災害対策が進む大きなきっかけに」と期待します。
宮城県医療的ケア児等相談支援センター 遠山裕湖センター長
「関係機関の連携も非常に重要になってくるので、各皆様方で一緒に1人のお子さんやご家族の現状をしっかりと知っていくということ。そして複数の個別支援計画ができることによって、各市町村の優先課題というものが見えてくるかと思いますので、そこに取組んでいくということが課題解決の1つになっていくのではないでしょうか」
「それでは、栗原市の医療的ケア者避難訓練始めたいと思います」
訓練が始まりました。母・勝恵さんはまず必要な荷物をまとめていきます。
医療機器はもちろん、水や布団など・・・事前にリストを確認しある程度の準備はしていたものの、思ったより時間がかかるようです。
その後、避難所の開設を確認。行政区長に支援を要請します。
「今から避難所に行こうと思うんですがお手伝いいただけますか」
「奏唱さん、今から避難所に避難します」
避難所では、奏唱さんの様子を生中継し行政の担当者や医療関係者などが見守りました。
避難を要請して5分後、地域の支援者が到着しました。
勝恵さんがまず頼んだのは、車の移動。一分一秒を争う場面では避難しやすい導線の共有も課題です。
奏唱さんの体重は21キロ。一旦、人工呼吸器を外して、車に乗せるため、手際よく行う必要があります。
避難を決めてから、約30分。想定よりも早く、避難所に到着することができました。
マットは折りたたんでいいのか。医療機器はどのように運んだらいいのか。迅速な避難には医療的ケアや奏唱さん自身についての理解も必要です。
物品の確保、そしてそれが置いてある場所の共有。訓練は、それぞれの立場で、気づきがあったようです。
星奏唱さんの母親・勝恵さん
「やっぱり実際に避難してみると、皆さん手伝ってくださる方も多いですし、自分だけでしなくていいんだなって、皆さんからの助けをいただいてできたっていうのがすごく、これからの安心感にもつながりました」
訓練をしたからこそ、見えてきた課題もたくさんありました。
個別の避難計画を作るには、それぞれに合った計画を立てる必要があることがよく分かります。
また、それだけでなく医療的ケアが必要な人の個別の避難計画を作ることは、高齢者や乳幼児といった、いわゆる災害弱者と呼ばれる人たちの災害対策にも幅広くつながると関係者は話しています。
栗原市では今後今回見えた課題を整理して、災害時支援に生かしたいとしています。