福岡・柳川市の水族館で2025年、中学1年の最年少館長が就任した。子供の頃から水族館に通い続け、生き物への深い愛情やその知識の広さを見込まれ、水族館側からスカウトされ新館長に就任したのだ。

新たな水族館長は中学1年生

『やながわ有明海水族館』の4代目館長に就任した中学1年の岩崎優介さん(13)。自宅の部屋を案内してもらうと、室内は、たくさんのフィギュアで溢れていた。中でも目を引くのは、魚のフィギュアだ。

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特に好きな魚は、オイカワ。「オイカワは結構、身近な川にいるんですよ。オスは、婚姻色が出ると、綺麗な色になって、なおかつ美味しい!」と笑顔を見せる。

岩崎さんが、本格的に魚を好きになったのは、小学生の時。図鑑に加え、国内の固有種や魚の生態を紹介した専門書も取り寄せ、知識を蓄えた。

小学校では、ジンベエザメやムツゴロウ、ワラスボといった珍しい魚の特徴をまとめた手製の“魚の新聞”を作成。イラスト付きで特徴や食べ方も紹介した。

更に、お小遣いで魚を買っては、スケッチを楽しみ、自分で料理することもあったという。

この日は、父親運転の車で、“職場”へ向かう優介さん。1か月に2日程度、館長業務に携わるため、自宅から約1時間半かけて『やながわ有明海水族館』に出勤する。

中学生の息子が突然、館長に。父親の孝二さんは、「息子に館長が務まるのか不安だった」と話す。それでも「できるようになるために、やらせるのが大事かなと思い、家族で息子のチャレンジを応援すると決めた」という。

「館長にならないか」小2から通いスカウト

『やながわ有明海水族館』は、子供達に生き物に興味を持ってもらおうと、NPO団体が運営。

柳川の周辺や有明海の魚を中心に約70種を展示し、地域の自然を身近に感じられる施設になっている。

小学2年の頃から毎月のようにこの水族館を訪れていた優介さん。豊富な知識と熱意をかわれ、『館長にならないか』と打診されたという。「最初は、自分には無理じゃないかと思った」という岩崎さんだが、無理せずにできる分でいいと言われ、周りのサポートもあることを知り、引き受けることになったという。

これまで歴代の館長は、高校生や大学生が務めていたが、岩崎さんは、史上最年少の館長となる。水族館側は、『子供の目線で魚のことや命の大切さを発信してもらいたい』と優介さんに強い期待を寄せている。

「この子になんでも聞いて下さい」

「餌をやった時に、魚がいっぱい、わーって群がってくる姿が、可愛いくて好き」。館長としての仕事で、一番楽しいのが“餌やり”だという。

楽しい餌やりに夢中になる岩崎さん。来場者がいても気が付かないほどだ。その様子を目にした父親の孝二さんは、「ちゃんと接客しろと言いたいが…、気付いて欲しいな」と、もどかし気。しかし、暫くして痺れを切らしたのか、「この子、館長なんで、なんでも聞いて下さい」と来場者に声を掛けた。

それを聞いた来場者が、「『シオマネキ』の大きい爪、左が大きいのと右が大きいのとあるんですね。どっちか決まってる訳じゃないの?」と早速、質問。

すると、「決まってないんですよ、実は。それは右利きか左利きかみたいなもので、有明海は、確か右手が多いらしいですよ」と岩崎さんはすぐに回答した。

続いて、「これは、何ですか?これは何?」と水槽の中を指さす男の子。「これは『トビハゼ』って言って…」と岩崎さんが説明を始めると、男の子は「捕まえたい!」と好奇心旺盛な様子。すると岩崎さんは、水槽から魚を取り出し、男の子に手渡す。「捕まえた!」と大喜びだった。

環境破壊への強い危機感

岩崎さんが来場者を案内したのは、水族館裏にある堀。網を投げ込むと『銀ブナ』がかかった。

「銀ブナは、鯉の仲間で、実は、ほとんどがメスなんですよ。オスは1000匹に1匹しか、いないらしくて。じゃあ、どうやって産卵するのかと言うと、ドジョウとか他の魚の精子を借りて、それで産卵するらしいです」と専門家顔負けの知識を披露した。

こうした活動の目的は、海や川に生息する魚介類を子供たちに知ってもらうこと。

特に、淡水では、元々いた魚が減る一方で、外来種が増えている状況だ。「生き物について、たくさん知ってもらい、大事にしようっていう意識をもってもらって、保全活動とかにも取り組んでもらえたらいいな」と話す岩崎さん。身近な海や川で起きている現状に危機感を持ち、定期的な生態調査を行っている。

「生き物にもっと詳しくなって、いろんなことを知れる館長になりたい。子供たちが生き物について学べる勉強になる場所にしたいです」。

岩崎さんが求める理想の水族館の姿だ。子供たちが魚に触れて楽しく学べる場所。そんな居心地の良い水族館を目指し、中学1年生館長の奮闘は続く。

(テレビ西日本)

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