2024年11月30日に、秋田市内のスーパーマーケットにクマが侵入し居座った事件も記憶に新しい。

怪我を負った40代の店員が搬送されたのが、中永先生が在籍する秋田大学医学部附属病院高度救命救急センターだった。現場は、JR秋田駅から北西に7kmほど離れた海の近くで、住宅や店舗などが建ち並ぶエリア。

クマが侵入した秋田市内のスーパーマーケット。バックヤードへの搬入口から侵入し、3日間居座った
クマが侵入した秋田市内のスーパーマーケット。バックヤードへの搬入口から侵入し、3日間居座った

被害を受けた店員は、顔にざっくりとした切り傷を負っており、「気がついた瞬間に襲われた」と話していたという。その状況は、札幌市東区で被害に遭った安藤さんのケースと同じく、まさに突然の襲撃だった。

札幌市だけでなく、北海道内では人里に近づくヒグマによる致命的事故も報告されている。福島町三岳の住宅地では、2025年7月12日に新聞配達員がヒグマに襲われ死亡した。

同月18日に駆除されるまで、現場付近ではクマの目撃情報や、スーパーのごみ置き場が荒らされたなどの被害が相次いでいた。クマは人の生活圏を恐れず、むしろ「食べ物が豊富」と認識して繰り返し街に現れたのではないだろうか。このケースは、人里周辺で暮らし、エサを探し求めて街中に出没する「アーバンベア」の危険性を示す典型例である。

野生とは異なる脅威

中永先生によると、クマが街中へ姿を現す背景の一つに、「里山の崩壊」があるという。かつて人とクマの生息域を隔てていた緩衝地帯としての里山は、過疎化や林業の衰退などにより管理が行き届かなくなってきている。

その結果、これまでのような棲み分けが成立しなくなっているというのだ。クマにとって街はもはや「危険な場所」ではなく、「餌が豊富にある場所」として認識されつつあり、こうした構造的な変化が街でのクマによるリスクをいっそう高めている。